- No.194一番槍、抜け駆け などなど…現代でも使われている”武士の文化”に由来する言葉をご紹介
- No.193かつては”幻の豆”と呼ばれていた山形名物「だだちゃ豆」はなぜ ”だだちゃ” と呼ぶの?
- No.192万年筆の‟万年”っていったい何なの? 万年筆が日本で使われるようになるまで
ちゃんと仕事してるのに…「油を売る」のが、どうしてサボりの代名詞と呼ばれるのか?
「どこで『油を売って』いたんだいっ!」……お使いの帰りに寄り道なんかして遅くなると、よくこう言われたものでした。
仕事をさぼって時間をつぶすことを「油を売る」と言うのはよく知られる通りですが、よく考えてみればちょっとおかしいと感じます。
昔から油は夜闇を照らす灯りとして重宝され(食用油が一般家庭に普及したのは明治時代以降)、それを商うことは立派に世の中の役に立っており、それをサボりと見なされるのは心外です。
かの松波庄五郎(まつなみ しょうごろう。後の斎藤道三)だって若い時に勤しんで身を立てた油売りが、どうしてサボりの代名詞にされてしまったのでしょうか。
由来は油の量り売りから
現代であれば、油はビンなり缶なりペットボトルに詰められているので、一ついくらで売り買いすればいいのですが、昔はお客さんの持ってきた容器に流し込む、量り売りスタイルが一般的でした。
油売りは相手がどんな容器を持ってこようと、自分の用意したマス(一合≒180ccとか一升≒1.8ℓとか)で油を汲んで、そこに注いで「一合or一升いくら」で売ることになります。
しかしマスで油を汲む時、油は水などに比べて粘り気があるため、油を汲んだマスの外側にも油がまつわりついて、みんなお客さんの容器に注ぎこまれてしまいます。
消費者の立場にすれば「何をケチなことを……」と思うでしょうが、油売りにしてみれば「塵も積もれば山となる」で、このコストが結構バカになりません。
だから油売りは、油を汲んでもすぐにお客さんの容器へは注がず、しばらく待ってマスの外側の油を滴らせて自分の容器に戻します。
商品はもらった代金ぶんしか渡したくない……確かに理屈としては正しいのですが、お客さんとしてみれば「代金は払ったのだから、早く商品を渡してくれ」と言いたくなるのが人情で、ゆっくりもったり滴り落ちる油を眺めているのは、かなりストレスが溜まりそうです。
そこで油売りは、お客さんが退屈しないように色々と話のタネを仕込んでおき、すっかり油が滴り落ちるまでの間、雑談に興じたのでした。
もちろんすべての油売りがそうだったとは思えませんが、こうしたエピソードから、くっちゃべって時間をつぶすことを「油を売る」と言うようになったのだそうです。
※参考文献:
日本語倶楽部『語源500 面白すぎる謎解き日本語』KAWADE夢文庫、2019年11月
バックナンバー
- No.194一番槍、抜け駆け などなど…現代でも使われている”武士の文化”に由来する言葉をご紹介
- No.193かつては”幻の豆”と呼ばれていた山形名物「だだちゃ豆」はなぜ ”だだちゃ” と呼ぶの?
- No.192万年筆の‟万年”っていったい何なの? 万年筆が日本で使われるようになるまで
- No.191もともとは「やよす」?東京の「八重洲」の地名は外国人の名前に由来していた。その名称の変遷を紐解く
- No.190筋子とイクラの違い?ご飯食べるのになぜ「お茶碗」?知ってるようで知らない和の食材【その3】