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大河「べらぼう」繁盛しても地獄の吉原。五代目・瀬川花魁(小芝風花)の運命を左右した3冊の本【後編】

大河「べらぼう」繁盛しても地獄の吉原。五代目・瀬川花魁(小芝風花)の運命を左右した3冊の本【後編】

【前編】では、蔦重が手がけた新しい吉原のガイドブック『吉原細見 籬の花(まがきのはな)』が飛ぶように売れたこと。その本で五代目瀬川誕生のニュースを知り彼女目当ての客が激増したこと。繁盛は願ったことなれど、その分タチの悪い客も増え、体の負担が増していくという過酷な吉原の現状をご紹介しました。

大河「べらぼう」繁盛しても地獄の吉原。五代目・瀬川花魁(小芝風花)の運命を左右した3冊の本【前編】

大河ドラマ「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」で、圧倒的な存在感を放っている、花の井こと五代目瀬川花魁(小芝風花)。[caption id="attachment_241501" align="al…

そんな瀬川の心の支えは、幼い頃に蔦重からもらってボロボロになるまで何度も読んだ『塩売文太物語』という本でした。そして瀬川は、自分の運命を変えた盲人で金貸しの鳥山検校と出会います。

【後編】では瀬川と鳥山検校の距離が近づくきっかけとなった本、九郎助稲荷までが怒りの声をあげるほど鈍感すぎる蔦重と、「大きな勘違い」で彼が瀬川に贈った本の2冊のエピソードとともに、揺れる瀬川の心情と変わっていく運命をご紹介しましょう。

2冊目の本は「栄華は極めても儚きもの」という『金々先生栄花夢』

吉原では、位の高い花魁は客との「初会」は口をきかず眺めるだけというしきたりがあるものの、盲人の鳥山検校は瀬川の姿を眺めることはできません。そこで瀬川は彼がプレゼントしてくれた本の中から1冊を読んできかせようというもてなしを提案します。

「しきたりに反する」という鳥山検校に「花魁の姿を楽しむのが初会。『声』を楽しんでなんの罰がありましょう」と、実に機転の効いた男前な返事をします。

瀬川が手に取ったのは、蔦重の商売敵で偽版罪で処罰された鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)が新たに出版した青本(※)『金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)』で、作者・恋川春町は、狂歌師、黄表紙作者、浮世絵師として活躍した多才な人物でした。

※青本:表紙が青(もえぎ色)で浄瑠璃・歌舞伎・軍記物などを翻案・簡略化したもの。

『金々先生栄花夢』のあらすじ

片田舎に住んでいた金村屋金兵衛という貧乏な若者が、江戸で一花咲かせようと思い旅立ち、途中で目黒不動に立ち寄り門前の粟餅屋で粟餅を頼む。

ところが「今、餅を蒸している途中」といわれ待っている間にうとうとと寝てしまう。

ふと気がつくと、立派な駕籠を従えた裃姿の者が現れ、実は金兵衛は大金持ち泉屋清三の跡取りだと告げられる。屋敷に連れて行かれた金兵衛は跡取りになり、莫大な財産を手に入れ放蕩ざんまいの生活を楽しむように。

さらに、金目当ての周囲から「先生」「先生」と持ち上げられその気になり、遊郭遊びをするも徐々に資金も尽きてしまう。そして呆れた泉屋に勘当されて追い出される……というところで目が醒めるという内容です。

すべては夢の中の出来事だったのです。粟餅が蒸し上がるまでの短い時間に見た一攫千金で栄華を極めた(つもりになった)夢。金兵衛は江戸で一花咲かせても儚い夢のようなものだと悟り故郷に帰るという話です。

この話は「邯鄲の枕(かんたんのまくら)」という、唐の沈既済の小説『枕中記』(ちんちゅうき)の故事の一つのパロディ版といわれています。盧生という若者が粟粥を煮ている間に栄旺栄華を極める体験をするも、すべては夢幻であったことから、人の栄枯盛衰は所詮夢に過ぎない儚いものと悟るという内容です。

「金々先生」とは、金村屋金兵衛からとったもので、「金持ちで流行の先端をいく粋人」を指したそうですが、金はあっても似合わない衣装や髪型でいかにも通人気取りの半可通の客のことも揶揄していたそうです。

2ページ目 鈍感すぎる蔦の重三が瀬川にあげた3冊目の本

 

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