親孝行をしたい時に親はなし…幼くして母を亡くした平安貴族・山田古嗣の涙:2ページ目
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子欲養而親不待也……古嗣の涙
古嗣は幼いころに母を亡くしており、おばに養育されていました。
そんなある日、古嗣は大陸から伝わった説話集『韓詩外伝』を読んでいて、こんなフレーズを目にします。
樹欲靜而風不止。子欲養而親不待也
【意訳】樹は静けさを欲しても、風がやまない。子は孝養を欲しても、親(の寿命)は待ってくれない。
「母さん、どうして死んでしまったの……」
後悔の涙で巻物を濡らしてしまった古嗣。しかし母親がずっと元気でいる、親孝行なんていつでも出来るという慢心が招いた結果には違いありません。
(幼子にそんなことを求めるのは、いささか酷ではありますが)
そんな後悔から、古嗣は父やおばに孝養を尽くすようになったということです。
終わりに
古嗣は仁寿3年(854年)12月21日に57歳でこの世を去りました。
生前は任国で灌漑事業をはじめとする仁政をもって名声を得たと言いますが、もしかしたら母親に返せなかった恩義を世に返したかったのかも知れませんね。
親の恩は決して返せない代わり、受けた愛情を子孫や次世代へとつなげていく。その結果として私たちの生きる現代があることを思うと、両親や祖先に対する感謝の念が湧き起こってくるものです。
※参考文献:
- 森田悌『日本後紀 下 全現代語訳』講談社学術文庫、2007年2月
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