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忠義をとるか?女をとるか?そりゃあもちろん……「三河武士の鑑」鳥居元忠はこうした【どうする家康 外伝】:2ページ目
「馬場の娘は、いかがでしたか」
「ん?馬場の娘か。そなたの申すとおり探させてはみたが、おらなんだと彦右衛門が言うておったぞ」
そう聞いて、その者はいぶかしみます。
「え、馬場の娘は殿が鳥居殿にお授けになったのではないのですか?」
「何をたわけたことを。おらぬ者を授けるなど、出来るものか」
「ははぁん(何か察した様子)……殿。実は馬場の娘は……」
耳打ちを聞いた家康は驚きました。何と彦右衛門は馬場の娘を見つけていたのに、自分の元へ迎えたくて、家康には「いなかった」と謀(たばか)りを言ったのです。
「今ではまるで本妻のように堂々とされているので、てっきり殿のご公認だったのかと……」
「まったく、あの彦右衛門め。これはしてやられたわい!」
家康は悔しそうな顔を見せます。馬場の娘は大層な器量よし、密かに家康も狙っていたのでした。
「……とは言うものの、わしとて織田殿をたばかって武田の旧臣たちを匿っているのだから、彦右衛門が武田の娘ひとり匿ったのを責める筋合いではないのぅ……」
昔から忠義一徹のようでいて、意外とちゃっかりしてやがる。家康は呵々大笑したということです。
終わりに
……武田氏亡て後、家康馬場信房が娘、去る所に隠くれ居るを聞き、元忠に命じて捜索せしむるに、見えざる由申して止みぬ。其後先きに隠れ居ると申しゝ者、重ねて家康前へ出し時、又候此事尋ねられしに、其者膝近く匍匐寄りて、真とは其娘元忠が方に往着きて、今は本妻の如くにてあると申せば、あの彦右衛門と曰ふ男子は、年若きより何事にもぬからぬ奴なりと、高聲にて笑はれしとぞ……
※『名将言行録』巻之五十一 鳥居元忠
かくして馬場の娘を側室に迎えた鳥居元忠。その後、彼女との間には一女三男を授かりました。
女子
母は馬場美濃守氏勝(信房、信春)が女。家傳に、元忠東照宮の仰により、氏勝が女を娶て妾とすといふ。戸澤右京亮政盛が室。
鳥居忠勝
左近母は上に同じ。家臣となる。男瀬兵衛兵衛忠豊がとき、水戸中納言頼房卿につかふ。
鳥居忠頼
鳥居権之助忠洪が祖。左門 讃岐守 石見守 美濃守 母は上におなじ。
鳥居忠昌
伯耆守 今の呈譜忠義に作る。母は上におなじ。家臣となる。
※『寛政重脩諸家譜』巻第五百六十 平氏(支流)鳥居より
※文中「家臣となる」というのは徳川家ではなく、鳥居家の嫡男である鳥居忠政(母は正室・松平家広の娘)に仕えたことを指しています。そう書かれていない鳥居忠頼は別家を興しました。
かくして武田家を支えた名将の血脈は後世に受け継がれ、徳川将軍家を扶翼することとなるのですが、それはまた別の話。
NHK大河ドラマ「どうする家康」では子供はおろか妻妾も描かれていない彦右衛門ですが、今後登場する機会はあるのでしょうか。
これからも、彼らの活躍を楽しみに見守っていきましょう!
※参考文献:
- 『名将言行録 6』国立国会図書館デジタルコレクション
- 『寛政重脩諸家譜 第三輯』国立国会図書館デジタルコレクション
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