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火事をスケッチし戻ると自宅が全焼…刀を筆に持ち替えた浮世絵師・小林清親が描いた東京が美しい

火事をスケッチし戻ると自宅が全焼…刀を筆に持ち替えた浮世絵師・小林清親が描いた東京が美しい

清親が描く明治初年の東京の風景

沈みゆく夕日と隅田川を描いた『隅田川小春凪』。空の淡いグラデーションと、夕日が反射してきらきらと光る水面をがなんとも美しい。この絵のように空を大きく描くことで、時間や天気による空模様の変化を繊細に表現するのも光線画の特徴だ。

川辺を飛び回る蛍のほのかな光が印象的なこちらは『天王寺下衣川』。蛍に目が奪われがちだが、奥に描かれた人物のシルエットも見逃さないでほしい。真っ暗な夜を照らすのは、蛍と建物から漏れる灯りとぼんやりとした提灯。その僅かな灯りに映し出された緻密なシルエットこそ、清親の光線画の真骨頂なのである。

続いて紹介するのは、明治14(1881)年に起きた両国の大火を描いた『両国大火浅草橋』。轟々と燃え上がる真っ赤な炎と青い空のコントラストが不謹慎ながら美しいだけでなく、炎と煙の向こうの建物や舟で対岸から避難しようとしている人々の様子が、光線画の技法により見事に描き出されている。

実はこの火事が起きた当時清親は両国に住んでいた。近所で火事が起きたと聞くと、画材を持って現場付近まで走ってスケッチに行ったそうだ。混乱する現場の中で一心不乱に絵を描く姿はさぞ奇妙であったに違いない。満足して帰った清親だったが、なんと自宅は火事により全焼。さらに妻が清親に愛想を尽かし出て行ってしまったのだ。

しかし、この大火を描いた作品は何度も重版されるほどの人気を博した。なんという皮肉だろうか…。

【次回に続く】

 

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