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全文読まなきゃ勿体ない!伝説の海軍参謀・秋山真之の文才が光る「聯合艦隊解散之辞」の現代語訳を紹介【坂の上の雲】

全文読まなきゃ勿体ない!伝説の海軍参謀・秋山真之の文才が光る「聯合艦隊解散之辞」の現代語訳を紹介【坂の上の雲】:2ページ目

「聯合艦隊解散之辞」原文ルビ付き

まずは原文をルビつきで紹介します。読むのが面倒ならば読み飛ばしてもいいのですが、出来れば黙読するだけでも、明治人の高い教養を感じられるでしょう。

二十閲月(えつげつ)ノ征戰(せいせん)已(すで)ニ往事(おうじ)ト過ギ、我ガ聯合艦隊ハ今ヤ其ノ(その)隊務ヲ結了(けつりょう)シテ茲(ここ)ニ解散スル事トナレリ。

然(しか)レドモ我等海軍々人(かいぐんぐんじん)ノ責務ハ決シテ之(これ)ガ爲ニ輕減セルモノニアラズ。

此ノ(この)戰役(せんえき)ノ收果(しゅうか)ヲ永遠ニ全ウシ、尚益々國運(こくうん)ノ隆昌(りゅうしょう)ヲ扶持(ふじ)センニハ、時ノ平戰(へいせん)ヲ問ハズ、先ヅ(まず)外衞(がいえい)ニ立ツベキ海軍ガ常ニ其ノ武力ヲ海洋ニ保全シ、一朝(いっちょう)緩急(かんきゅう)応ズルノ覺悟アルヲ要ス。

而シテ(しこうして)武力ナル物ハ艦船兵器等ノミニアラズシテ、之(これ)ヲ活用スル無形ノ實力(じつりょく)ニアリ、百發百中ノ一砲(いっぽう)能ク(よく)百發一中ノ敵砲百門ニ對抗(たいこう)シ得ルヲ覺ラバ、我等軍人ハ主トシテ武力ヲ形而上(けいじじょう)ニ求メザルベカラズ。

近ク我ガ海軍ノ勝利ヲ得タル所以(ゆえん)モ、至尊(しそん)ノ靈徳(れいとく)ニ頼ル所多シト雖モ(いえども)、抑(そもそも)亦(また)平素ノ錬磨(れんま)其ノ因(そのもと)ヲ成シ、果(か)ヲ戰役ニ結ビタルモノニシテ、若シ(もし)既往ヲ以テ將來ヲ推ス(すいす、おす)トキハ、征戰息ム(やむ)ト雖モ安ンジテ休憩ス可(べ)カラザルモノアルヲ覺ユ。

惟フ(おもふ)ニ武人ノ一生ハ連綿不斷(れんめんすだん)ノ戰爭ニシテ、時ノ平戰(へいせん)ニ由リ(より)其ノ責務ニ輕重(けいちょう)アルノ理(ことわり)ナシ。

事有レバ武力ヲ發揮(はっき)シ、事無ケレバ之(これ)ヲ修養シ、終始一貫其ノ本分ヲ盡サン(つくさん)ノミ。

過去ノ一年有半彼ノ風濤(ふうとう)ト戰ヒ、寒暑ニ抗シ、屡々(しばしば)頑敵(がんてき)ト對シテ生死ノ間ニ出入セシコト固(もと)ヨリ容易ノ業ナラザリシモ、觀(かん)ズレバ是レ亦長期ノ一大演習ニシテ之ニ參加シ幾多(いくた)啓發(けいはむ)スルヲ得タル武人ノ幸福比(ひ)スルニ物無シ。

豈(あに)之ヲ征戰ノ勞苦トスルニ足ランヤ。

苟(いやしく)モ武人ニシテ治平ニ偸安(とうあん)センカ、兵備ノ外觀毅然タルモ宛モ(あたかも)沙上ノ樓閣(さじょうのろうかく)ノ如ク、暴風一過忽チ(たちまち)崩倒(ほうとう)スルニ至ラン。洵(まこと)ニ戒ムベキナリ。

昔者(むかしは)、神功皇后(じんぐうこうごう)三韓(さんかん)ヲ征服シ給ヒシ以來、韓國(朝鮮半島)ハ四百餘年間、我ガ統理ノ下(もと)ニアリシモ、一タビ海軍ノ廢頻(はいたい)スルヤ忽チ之ヲ失ヒ、又近世ニ入リ、徳川幕府治平ニ狃(な)レテ、兵備ヲ懈(おこた)レバ、舉國(きょこく、くにをあげて)米艦數隻ノ應對ニ苦シミ、露艦亦千島樺太ヲ覬覦(きゆ)スルモ、之ト抗爭スルコト能ハザル(あたわざる)ニ至レリ。

飜ツテ(ひるがえって)之ヲ西史ニ見ルニ、十九世紀ノ初メニ當リ、ナイル及ビトラファルガー等ニ勝チタル英國海軍ハ、祖國ヲ泰山(たいざん)ノ安キニ置キタルノミナラズ爾來(じらい)後進相襲ツテ(あいおそって)能ク其ノ武力ヲ保有シ世運ノ進歩ニ後レザリシカハ、今ニ至ル迄(まで)永ク其ノ國利ヲ擁護シ國權ヲ伸張スルヲ得タリ。

蓋シ(けだし)此ノ(かくの)如キ古今東西ノ殷鑑(いんかん)ハ爲政ノ然シカラシムルモノアリト雖モ主トシテ武人ガ治ニ居(あり)テ亂ヲ忘レザルト否(いな)トニ基(もとづ)ケル自然ノ結果タラザルハ無シ。

我等戰後ノ軍人ハ、深ク此等ノ實例ニ鑑ミ(かんがみ)、既有(きゆう)ノ錬磨(れんま)ニ加フルニ戰役ノ實驗ヲ以ツテ、更ニ將來ノ進歩ヲ圖リテ時勢ノ發展ニ後レザルヲ期セザル可カラズ。

若シ夫レ常ニ、聖諭(せいゆ)ヲ奉體(ほうたい)シテ、孜々(しし)奮勵(ふんれい)シ實力ノ滿ヲ持シテ放ツベキ時節ヲ待タバ、庶幾バ(こいねがわば)以テ永遠ニ護國ノ大任ヲ全ウスル事ヲ得ン。

神明(しんめい)ハ唯平素ノ鍛錬ニ力メ(つとめ)戰ハヅシテ(戦わずして)既ニ勝テル者ニ勝利ノ榮冠ヲ授クルト同時ニ、一勝ニ滿足シ治平ニ安ンズル者ヨリ直(ただち)ニ之ヲ褫フ(うばう)。

古人曰ク(いわく)勝ツテ兜ノ緒ヲ締メヨト。

明治三十八年十二月二十一日 聯合艦隊司令長官 東郷平八郎

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