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清少納言も愛読?幻の平安文学『梅壺の大将』について考察してみた

清少納言も愛読?幻の平安文学『梅壺の大将』について考察してみた

ゴシップネタ?それともヒーロー物語?

まずは『梅壺の大将』について、作者はもちろん成立年代も不明、鎌倉時代の文芸評論書『無名草子(むみょうぞうし)』や同時代の文学和歌集『風葉和歌集(ふうようわかしゅう)』にも一切言及がないことから、そのストーリーも不明です。

まったく取りつくしまもありませんが、唯一にして最大のヒントはタイトル通り『梅壺の大将』。ほぼ間違いなく主人公の名称(※)でしょう。

(※)コミック『AKIRA』のように、タイトル人物があまり登場しないパターンも考えられますが。

梅壺とは凝花舎(ぎょうかしゃ。御所の北西に位置する女御らの住まい)の別名で、大将とは文字通りの武官、とは言っても御所に出入り(関係)できるくらいですから、身分の低い武士ではなく、やんごとなき貴族と考えられます。

女御たちの寝起きする梅壺で、大将が何をするのでしょうか。何かスキャンダルでもあって、それをモデルに書かれた物語か、とも思いましたが、そういう他人の色恋(ゴシップ)ネタを、あの(サバサバを絵に描いたような)清少納言が好むとは思えません。

(よほど文学的に優れているならともかく……いや、所詮フィクションと割り切った上でなら、そういうネタも気分転換に楽しんだのかも知れませんが)

もしモデルとなる実話がないとしたら、あえて主人公の設定を武官とした理由は何でしょうか。あんまり粗暴な話は好まなそうですが、女性たちを脅かす物怪(もののけ)をカッコよく退治するヒーロー物語かも知れません。

「みんなから兎角ガサツっぽく言われている私だけど、こんなステキな大将に助けられてみたいなんて思うことだってあるんだから……」

日ごろの言動から、あまり男性そのものに期待していなかった(ように見える)清少納言ですが、彼女の(イケメンから大切にされたい)密かな願望を叶えてくれる物語だった可能性もあります。

結局のところ、いくら考えてみたところで『梅壺の大将』の本文が見つからない以上、どこまでも想像の域を出ないのですが、少なくとも清少納言を魅了する(特筆させる)ほどに高い文学性の物語であったことは間違いないでしょう。

もし『梅壺の大将』本文が発見されたら、是非とも読んでみたいですね!

※参考文献:
大庭みな子『現代語訳 枕草子』岩波現代文庫、2014年2月
萩谷朴『枕草子解環』同朋舎出版、1983年10月

 

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