手洗いをしっかりしよう!Japaaan

最後の浮世絵師”血みまれ月岡芳年”は大奥と歌舞伎界の大事件「絵島生島事件」をこう斬った!

最後の浮世絵師”血みまれ月岡芳年”は大奥と歌舞伎界の大事件「絵島生島事件」をこう斬った!:4ページ目

何故、夏なのか

 

『絵島生島事件』が起きたのは、正徳4年1月12日(1714年2月26日)です、春先と言ってもいいでしょう。ところがこの絵はどう見ても季節は夏です。なぜ月岡芳年は夏の設定にしたのでしょうか。

この二人は今どういう状況にあるのか考えてみると、下世話なことかもしれませんが、睦事の前なのか、後なのか。しかしよく見ると絵島の腰巻きのようなものが破れているように見えませんか?

 

二人は人目を避けて手に手をとり、この部屋に駆け込んだのかもしれません。そのときに腰巻きが破れてしまったとも考えられます。

そして絵島は汗を拭っている、生島新五郎は扇子をバタバタと扇いでいる。

そこで生島新五郎は我に返る。“何かがおかしい。何か上手く行き過ぎているんじゃないか”と。

 

この絵のタイトルは『生嶋新五郎之話』であり、この絵は生島新五郎が主役なのです。

不吉な気分を胸に困惑した表情で絵島を見上げる生島新五郎。絵島は自分の力を過信しているのか開放感に浸っています。

絵島がそうなっても無理はありません。絵島の“御年寄”という役職は、男でいえば“老中”クラス、今で言えば“首相”と同等の位にいるのです。誰が絵島に逆らえるかと思うでしょう、門限に遅れて江戸城の戸口を叩いても誰も扉を開かないという事態が起こるまでは。

二人のいる部屋には、提灯を揺らし、絵島の着物の袖を巻き上げるほどの強い風が吹き込んでいます。提灯に下がった風鈴がチリチリチリチリと煩わしいほどにうるさく音を立てています。

しかし生嶋の汗はおさまりません。生嶋の汗はやがて脂汗となり、やがて冷や汗と悪寒へと変わっていくでしょう。

生島新五郎は暑い夏だというのに激しく燃え盛る不安の火の中にいるのです。
運命が変わる日の前夜、嫌な予感にジリジリと身を焼かれそうなのです。

業火の中にいる二人の熱さを表現するには、夏の暑さがピッタリなのではないでしょうか。

『生嶋新五郎之話』これは血こそ流れてはいませんが、心臓がむしり取られるような無残絵なのだと筆者は解釈しました。

さいごに

それでは最後に絵島が詠んだ和歌をご紹介します。

「世の中に かかるならひいは あるものと ゆるす心の 果てぞ悲しき」

(完)

 

RELATED 関連する記事