あなたの「枕」は大丈夫?実は”魂が納まる蔵”だった「枕」にまつわる怖いお話【後編】
「枕」はただの寝具ではなく、古くは「魂蔵(たまくら)」「真座(まくら)」と呼ばれ、魂を収める場所、神霊が座る場所として大切に扱わなければならないものでした。
【前編】では、「枕を大切にしないと現れる」枕小僧・枕返しなどと呼ばれる怪異の逸話が数多く残されていることをご紹介しました。
あなたの「枕」は大丈夫?実は”魂が納まる蔵”だった「枕」にまつわる怖いお話【前編】
この【後編】では、その枕を用いた鬼婆による凶悪で残忍な犯罪伝説についてご紹介します。
浅茅ヶ原の鬼婆 伝説
「浅茅ヶ原の鬼婆(あさぢがはらのおにばば)」とは、現在の東京都台東区花川戸に伝わる伝説です。
昔々、江戸時代のこと。武蔵国花川戸のあたりには「浅茅ヶ原」と呼ばれる、荒れ果てた土地がありそこには一軒のあばら家があり、老婆と美しい若い娘が二人で住んでいました。
浅茅ヶ原には陸奥国や下総国を結ぶ小道があったのですが周囲にはなにもない荒地で、そこを通りがかる旅人たちは、あばら家を訪れて老婆に一晩止めてくれないかと頼み込んでいたそうです。
快く旅人を泊めてあげる親切な老婆と娘に、旅人はすっかり気を許してくつろぎ、旅の疲れもあって深い眠りにつきました。その姿を陰から見ていた老婆は、残忍な鬼婆の本性を表します。
鬼婆は、寝床にあった石の枕で旅人の頭をかち割って惨殺してしまうのです。(天井から縄をつけた大きな石を頭めがけて落としたという説も)
旅人の懐と荷物から金品を強奪した婆は、亡骸を近くの池に投げ捨てるのでした。
老婆の鬼畜の所業をやめさせようとしていた娘でしたが、逆に激しく叱責されるだけ。老婆が殺した旅人はなんと999人になりました。
石の枕で惨殺した旅人が1000人目を迎えたとき…
ある日1000人目となる稚児があばら家を通りかかり泊めて欲しいと頼みます。
老婆はいつものように快く稚児を泊めさせ、眠りについた頃を見計らい石の枕で頭を叩き割りました。
いつものように懐から金品を奪い、さて、亡骸を池に捨てようと引きずったところ、それが自分の娘だったことに気が付きます。
驚愕のあまりに腰を抜かす老婆。娘は我が身を犠牲にして老婆の鬼畜の所業を止めたのでした。
そこに、さきほどの稚児が現れます。稚児は、実は浅草の観音菩薩の化身で、老婆の行いを咎め娘の亡骸を抱いて消え去ったとか。老婆は自らの罪深さを恥じて池に身を投げ、その池は「姥ヶ池(うばがいけ)」と呼ばれるようになったそうです。
この話は、老婆が美しい娘を遊女にみたてて旅人を誘い込んだとか、娘が悲しげな表情で旅人に「泊まっていってください」と声をかけさせたとか、老婆は観音菩薩の力で竜と化して娘の亡骸とともに池深く潜って消えたとか、さまざまなパターンがあります。
この「浅茅ヶ原の鬼婆」は、江戸後期には浮世絵や芝居の題材にもなり、さまざまな作品も残されています。