「鎌倉殿の13人」畠山重忠を始末した時政・りく夫婦。しかし…第36回「武士の鑑」予習
「一度戦となれば、一切容赦はしない。相手の兵がどれだけ多かろうが、自分なりの戦い方をしてみせる」
武蔵国の利権をめぐり、舅の北条時政(演:坂東彌十郎)と利害の対立していた畠山重忠(演:中川大志)。
時政の娘婿・平賀朝雅(演:山中崇)によって北条政範(演:中川翼)毒殺の濡れ衣を着せられた重忠は国元に帰って臨戦態勢を整えます。
何とか戦を回避するため説得に向かった北条義時(演:小栗旬)ですが「鎌倉のためを思うなら、真に戦うべき相手は誰か(≒暴走する執権・時政、あるいはその裏にいる朝廷ではないのか)」と返され、答えに窮してしまいました。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、第36回放送のサブタイトルは「武士の鑑」。いよいよ避けられない北条・畠山の対決、重忠は大河史上にない最期を魅せてくれることでしょう。
畠山重忠の乱(戦闘の経緯)については前に紹介したので、今回は畠山一族を滅ぼして権力の絶頂に立った時政・りく(演:宮沢りえ)夫婦の失脚「牧氏の変」を紹介。
りく「楽しいことを考えましょう」
次回予告のセリフは、きっと伊豆へ追放される時政を慰めてのものと予想しています。。
『保暦間記』が伝える時政夫婦の実朝暗殺計画(牧氏の変)
……時政彌(いよいよ)権を恣(ほしいまま)にぞしたりける。此の人の妻牧の女房と申人あり心たけく憍(おご)れる人也。されば重忠は時政の聟也。又武蔵左衛門佐源朝政(朝雅)朝臣も(平賀四郎義信の子)時政の聟也けり。朝政は牧の御方腹のむこ也。畠山は二位殿(尼御台所、頼朝後室)義時以下の前腹の聟なるにより、常に不和なりければ人の讒言も有けるにや。又牧の女房思立事も有けるにや。重忠は弓箭を取て無双なりし上、殊に当将軍守護の人也ければ、此の人を先亡さんと思て重忠がいとこ稲毛三郎入道重成法師を語て讒しけるに、終に事積て武蔵国二俣河にぞ元久二年六月廿二日に重忠を討たりける。哀なる事也……
※『保暦間記』重忠被誅より(読みやすく句読点を入れ、カナ→かな、旧字→新字など直しています。以下同じ)
【意訳】北条時政はいよいよ権力を振るった。その妻は牧の女房(りく。牧の方)と言う野心家で、源実朝を排して実娘の婿である平賀朝雅を擁立しようと企んでいた。しかし実朝は血縁のない婿の畠山重忠が守っているため、まずは畠山から滅ぼそうと思い立つ。そこで重忠の従弟である稲毛重成(演:村上誠基)をそそのかし、謀略の末に重忠を滅ぼしたのであった。
……とまぁここまでは、ちょっと端折り気味ながら『吾妻鏡』とほぼ同様。まず「実朝を排して、朝雅を鎌倉殿に」という野心ゆえに重忠の粛清に踏み切った様子が描かれています。
さて、邪魔者の重忠を排除した牧の女房が次に打った手がこちら。
……同二十三日重成法師と舎弟榛谷四郎重朝を呼寄て彼女房申けるは、我むこの左衛門佐朝正(朝雅)当時京都に上て時政が代官とぞ差置昇殿しけり。是も伊予入道頼義朝臣五代の末なれば将軍に成らるに何の子細が有べき。当将軍を失奉らんと云ければ重成兄弟尤可然と同ず。
※『保暦間記』重忠被誅より
【意訳】6月23日、牧の女房は稲毛重成とその弟・榛谷重朝(はんがや しげとも)と謀議。
「我が婿殿(朝雅)は北条殿の代理として京都守護を務めているが、これも朝雅が源頼義(よりよし。頼朝の5代祖先)から5代の子孫だからである。源氏の棟梁として、鎌倉殿に成り代わる資格は十分であろう」
そこで実朝を「失い奉らん」と同意したのであった。
……いや、その理屈はおかしい。確かに朝雅は源氏の血統であり、たとえ鎌倉殿に相応しかったとしても、だからと言って何の非もない現将軍の実朝を排するのは筋違いというもの。
ちなみに、ここで言う「失う」とは将軍の地位かそれとも命か、何でも「奉る」さえつければ許されるってものでもないでしょう。ともあれ牧の方は実朝暗殺計画を立てるのでした。