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透ける小物を描くことで浮世絵師・喜多川歌麿が高めた浮世絵の表現力と芸術的価値

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針仕事

 

上掲の『針仕事』という作品は三枚続の作品ですが、一枚の絵だけでも完結した作品として鑑賞できる構成となっています。今回はその中の一つの作品について見てみましょう。

漆塗りの裁縫箱の前で女性がこれから裁断して縫う着物の生地の織目を見ています。これだけ透け感のある織物は紗か絽の生地でしょう。いずれにしても絹で織り上げられた高級な生地です。

このような高級な反物にハサミを入れるのに間違いを犯しては大変です。この女性は着物を仕立てる仕事をしているのでしょう。

 

この女性の生地を見る目つきが分かりますか?その真剣な眼差しが着物仕立ての職人としてのプライドをも表しているようです。

この絵が描かれたのは18世紀終わり“寛政の改革”のすぐ後のことでした。その頃松平定信が風紀を厳しく取り締まり「美人画」もその対象となっていました。

このことから東洲斎写楽を代表とするような「役者絵」が描かれていくようになるのですが、喜多川歌麿は「美人画」を追求することを辞めず、町人たちの普段の生活の中に「美人画」の要素を発見していったのです。

このころから歌麿の作品の中には“母と子”の姿を描く作品が増えていきます。

この『針仕事』という作品は、この布が透明感のない普通の絹の生地だとしたらそもそも存在しない作品です。

この布を敢えて透明感のある生地にしたことから、薄い生地を透かして見ている女性の姿が見えて、この女性の生命力や、たおやかな腕からほんのりとした色気を感じることが出来るのです。

女性の足元には腹掛け一枚の幼子(このことからも季節は夏だと分かります)が、母親と思われる女性の足にじゃれついて遊んでいます。

この幼子を足でしっかりと受け止めながらも、頭の中は冴えて仕事に集中しているという強い母の姿が完璧な構図をもとに描かれているのです。

この作品が一人の人間で描かれたものではなく、浮世絵師、彫師、摺師の3人のチームワークで創作されたものだと思うと、素晴らしいとしか言いようがありません。

まとめ

“透け感のある小物”を絵に多用したことは、浮世絵の芸術的価値を押し上げることに一役買ったのではないのでしょうか。喜多川歌麿は他にもいくつも“透けて見える小物”を使った浮世絵を残しています。

そのような浮世絵は、江戸時代の人々の感性を刺激するのに十分なものであったと思うのです。

(完)

 

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