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東京オリンピック開会式で海老蔵が魅せた!歌舞伎「暫(しばらく)」の単純痛快な物語

東京オリンピック開会式で海老蔵が魅せた!歌舞伎「暫(しばらく)」の単純痛快な物語:2ページ目

永らく天下泰平が謳われた江戸時代。表向きの戦さこそなくなったものの、権力を嵩(かさ)にきた役人の搾取や、庶民同士でも陰湿ないじめが蔓延(まぁ、現代も変わりませんね)。

「武ある者が武なき者を足蹴にし、才ある者が才なき者の鼻面をいいように引き回す。これが人の世か。ならばわしはいやじゃ。わしだけはいやじゃ」

※和田竜『のぼうの城 上』185ページ

「長いものには巻かれよ」「水に落ちた犬は棒で叩け」

とかく鬱屈した世の中に「暫く!」と一石を投じ、こざかしい連中をバッサバッサと斬り捨てて、悪の権化を完全論破。そんな痛快なヒーローを望む庶民の思いが、あの一言に受け継がれてきたのでしょう。

終わりに

ところ改めて、今回の東京オリンピック。

AIやドローンなど何かと先進的な演出が多かった印象ですが、せっかく世界に日本をアピールするのであれば、10年20年後にはどうなっているかもわからない流行りものより、歌舞伎のみならず伝統的な文化・芸能を強調した方が、外国の方にも喜ばれたように感じます。

日本人は何かと自分たちの伝統文化を諸外国に比べて遅れたものと否定し、より新しく「進んだ外国の文化」に倣い、趣向を凝らした方が喜ばれると思い込む傾向が見られるものの、決してそんなことはありません。

「ちょっと待て。自分たちの持っているよいものをきちんと見直し、誇りを持て」

ただ独り屹立する権五郎の姿は、人々が忘れかけている日本の精神や美学を全身で訴えていたように感じられます。

※参考文献:
河竹繁俊・児玉竜一『歌舞伎十八番集』講談社学術文庫、2019年9月12日
十二代目 市川團十郎『新版 歌舞伎十八番』世界文化社、2013年9月14日

 

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