恩も怨みも倍返し!祇園祭の主人公でありながら忘れられた神様「牛頭天王」はとても激しい性格だった:2ページ目
恩も怨みも倍返し……牛頭天王が復讐に迫り来ると、古單将来は千人もの僧侶を集めて大般若経(だいはんにゃきょう。般若心経)を七日七晩にわたって唱えさせましたが、僧侶の一人が居眠りをしてしまったために失敗。
結界が破られた古單将来ら一族は、怒り狂った牛頭天王によって5,000余人がことごとく蹴り殺されてしまいました。
「……おや、そなたは蘇民将来の娘ではないか?」
「はい」
蘇民将来の娘は叔父に当たる古單将来に嫁いでおり、牛頭天王が追い払われた時も、かわいそうだとかばってくれたのを思い出します。
「よし、そなたの父には恩義があるゆえ助けよう。これからも人間どもに祟りをなすこともあろうが、その時にそなたら子孫を誤って傷つけぬよう、護法を授けるゆえ確(しか)と覚えよ」
「はい」
茅(ち)の輪をつくって赤絹の房と「蘇民将来之子孫也(そみんしょうらいのしそんなり)」と書いた札をつけることで、災いから逃れられる……それが夏と年末の祓(はらえ※)に行われる茅の輪くぐりの起源ということです。
(※)半年間で染みついてしまったケガレ(穢れ)を落として疫病を避け、心身の禊(みそぎ。身削ぎ)をする儀式。夏は6月30日「夏越(なごし)の祓」、冬は大晦日「大祓(おおはらえ)」が行われます。
終わりに
以上は仏教のストーリーですが、これが日本では神道(日本神話)の神様であるスサノオノミコト(須佐之男命)に当てはめられ、やがて同一視されていきます。
それが明治時代に入ると神仏分離令によって廃仏運動が起こり、牛頭天王が追い出されてスサノオノミコトのみがクローズアップされたのでした。
こうして忘れられつつある牛頭天王ですが、廃仏運動を生き延びて牛頭天王をお祀りする寺院も存在し、また日本各地に疫病除けを願って祇園祭をはじめ、天王祭や蘇民祭が行われるなど、その信仰は現代にも受け継がれています。
※参考文献:
桜井徳太郎 編『民間信仰辞典』東京堂出版、1980年11月
川村湊『牛頭天王と蘇民将来伝説 消された異神たち』作品社、2007年8月