渋すぎる!平隊士の身分を貫いた新選組の”仕事人”蟻通勘吾の美学【上】:3ページ目
屯所を守った八十八たちは……
その一方で、屯所(とんしょ)の留守を任されていた八十八たちは「斬り込みに参加していないから」と報奨金は無し。
少なからぬ隊士が不満を訴えたであろうところ、土方は「生命を賭けた者が相応に報われるのは当然であり、恩賞が欲しいなら次の機会に頑張ればよい」として退けましたが、これは少し話が違うようにも思われます。
池田屋への斬り込みメンバーが志願制であったならともかく、人員の割り当ては命令によるものであり、これでは屯所の警備や後方支援を命じられた瞬間に「報奨金なし」が確定してしまい、任務に当たる隊士の意欲は大きく削がれてしまうでしょう。
主力メンバーの出撃によって屯所が手薄となった隙を衝いて敵が襲撃してくるリスクもゼロではないのだし、今回は過激派尊攘志士たちによる人質(古高俊太郎-ふるたか しゅんたろう)の奪還も企まれており、だからこそ腕の立つ八十八たちが留守に残された筈です。
そんな意見もあったでしょうが、ともかく「鬼の副長」の決定が覆ることはなく、一部隊士たちの間には不満が残ったことでしょう。
しかし、胸に大きな志を持った八十八は目先の損得にとらわれることなく、その後も勘吾と切磋琢磨しながら隊務に邁進していくのでした。
※参考文献:
永倉新八『浪士文久報告記事』新人物文庫、2013年9月6日
永倉新八『新選組顛末記』新人物文庫、2009年5月1日
好川之範 『箱館戦争全史』新人物往来社、2009年1月1日