京都に残る独自の音頭、紅葉音頭
以前、滋賀県の江州音頭を紹介した際に「京都には独自の盆踊りがなくて、江州音頭の勢力下にある」みたいなことを書きました。確かに京都に於ける江州音頭の浸透ぶりは強いものがありますが、しかし、独自の音頭が全くないわけでもありません。郊外の旧農村エリアへ行くと、小規模ながらも実にネイティブな音頭が残ってたりします。
紅葉音頭は、そんな音頭のひとつです。紅葉といっても、秋が深まる11月に踊るわけではありません。8月末か9月の頭に、京都市の北東部である修学院や上賀茂で盆踊りとして今も踊られます。何でこの時期に「紅葉」なのかは、わかりませんが。
紅葉音頭の大きな特徴は、歌でしょうか。江州音頭も歌がグルーヴの軸になってると書きましたが、紅葉音頭はその傾向がより顕著です。
修学院離宮のすぐそば・鷺森神社御旅所で8月の末に行なわれた盆踊りでは、開始時間になると櫓へ太鼓が登場。その太鼓がドンと鳴らされ、踊り子さんたちは踊り始めます。普通です。実に普通です。が、この太鼓に合わせた踊りは、紅葉音頭ではありません。これは、イントロにあたる「にわか踊り」、そして「題目踊り」。農村でかつて起こった飢饉による死者を弔う踊りです。
それが終わってから、紅葉音頭はスタート。太鼓がよりハードに打ち鳴らされるのかと思いきや、太鼓の人、退場。他の楽器も、一切なし。ただただ歌だけで、音頭は進行します。曲は、京都のから東海道をひたすら東へ向かって歩き、江戸に着くまでを歌い上げる『東下り』。浜松や藤枝など、途中の町を丁寧に歌いこむため、30分くらい続きます。歌うのは、おっちゃん一人。もちろん、途中で息が切れそうになりますが、それでも歌います。で、そのおっちゃんの歌だけに合わせて、踊り子さんたちは延々と踊るのです。
紅葉音頭はよく見ると踊りが6動作で、これは江州音頭と共通します。振りは江州音頭とは違い、かつて「御所音頭」と呼ばれてたのも納得させられるくらい「たおやか」ではありますが。歌のグルーヴ、あるいは言霊の響きに合わせ、静かに踊る。京都らしいといえば、実に京都らしい盆踊りなのかも知れません。