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紫式部が才能を隠すため“痴れ者“のフリをした処世術「惚け痴れ」とは?能ある紫式部は爪を隠す!

紫式部が才能を隠すため“痴れ者“のフリをした処世術「惚け痴れ」とは?能ある紫式部は爪を隠す!:3ページ目

わずらわしい人間関係を乗り切る

そして紫式部は、「惚け痴れ」の演技を続けながら、宮中での人間関係を築いていったようです。以下は、『紫式部集』に収められたある女房の言葉です。

かうは推しはからざりき。いと艶に恥づかしく、人見えにくげに、そばそばしきさまして、物語このみ、よしめき、歌がちに、人を人とも思はず、ねたげに見おとさむものとなむ、みな人々言ひ思ひつつ憎しみを、見るには、あやしきまでおいらかに、こと人かとなむおぼゆる。
(あなたがこんな人だとは思っていませんでした。 ひどく風流を気取り、近づきにくく、よそよそしい態度で、物語好きで由緒ありげに見せ、すぐに歌を詠み、人を人とも思わず、憎らしい顔で見下す人に違いないとみんなで言ったり思ったりして、あなたを毛嫌いしていました。それが実際にお会いしてみると、あまりに穏やかで控えめなので、違う方なのかと思いました)

この言葉を聞いた式部は、

「人にかうおいらけ者と見落とされにける」とは思ひ侍れど、ただ「これぞわが心」と習ひもてなし侍る……
(「人からこんなふうに『おっとりした人」と見下されてしまった」とは思いましたが、「これこそ私の本性」と思って修練を続けました)

と述べています。

そうしているうちに中宮の彰子までもが、

 いとうちとけては見えじとなむ思ひしかと、人よりけにむつまじうなりにたるこそ
 (こんなに打ち解けてお付き合いできるとは思っていませんでしたが、他の人よりずっと仲良くなることができましたね)

という言葉を折に触れてかけてくれるようになったのです。

そして式部はこの項を、次の一文で締めくくっています。

 くせぐせしく、やさしだち、恥ちられ奉る人にもそばめたてられで侍らまし
 (一癖あって、優雅に振る舞い、中宮様が一目置いている上臈の方々からも、不快に思われないようにしたいものです)

一時は宮仕えもままならず「引きこもり」になってしまった紫式部ですが、自分なりのやり方で人間関係を乗り切った式部は大したものです。

そして、職場での人間関係のわずらわしさやストレスは、千年以上前も同じだったんだなと驚かされますね。

参考資料:
歴史探求楽会・編『源氏物語と紫式部 ドラマが10倍楽しくなる本』(プレジデント社・2023年)

 

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