「鎌倉殿の13人」時政・りくの謀叛計画「牧氏の変」を慈円はこう見た。第37回放送「オンベレブンビンバ」予習
武蔵国を我がものとしたい野心のため、武士の鑑であった畠山重忠(演:中川大志)らに謀叛の濡れ衣を着せて畠山一族を抹殺した北条時政(演:坂東彌十郎)。
しかし、そのあまりに強引なやり口に御家人たちの反発は高まり、ついに我が子・北条義時(演:小栗旬)から引退を迫られてしまいます。
鎌倉政権の中心から外されて面白くない時政は、愛妻のりく(演:宮沢りえ。牧の方)に唆されて娘婿の平賀朝雅(演:山中崇)を次の鎌倉殿に担ぎ上げようと画策。
そのためには、現在の鎌倉殿・源実朝(演:柿澤勇人)を排除しなければなりません。果たして時政は、自分の孫を失い奉ってしまうのでしょうか。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、畠山重忠ロスに浸る間もなく第37回「オンベレブンビンバ」の放送が迫っています。
謎めいたサブタイトルの意味するところは諸説ありますが、それが北条父子の対決を暗示していることは間違いないでしょう。
これまで『吾妻鏡』『保暦間記』で紹介してきた時政のクーデター計画「牧氏の変」を、今度は『愚管抄』より紹介。作者の慈円(演:山寺宏一)は遠く鎌倉で勃発した騒動をどのように見てきたのか、また違った角度から切り込んでみましょう。
娘たちを有力者に嫁がせ、勢力を拡大する“りく”
……時政わかき妻をもうけてそれが腹に子どももうけ、娘多く持ちたりけり。
この妻は大舎人允宗親と云いける者の娘なり。舅とて大岡判官時親とて五位尉になりてありき。
その宗親。平頼盛入道がもとに多年仕えて、駿河国の大岡牧と云う所を治(しら)せけり。
武者にも非ず、かかる者の中に、かかる果報の出(い)で来る不思議の事なり。娘の嫡女にはともまさ(朝雅)とて源氏にてありけるはこれ義(大内惟義)が弟にや。源頼朝が猶子と聞こゆる。
この友正(朝雅)をば京へ上ぼせて院に参らせて御笠懸の折も参りなんどして遣わせけり。こと娘どもも皆公卿殿上人どもの妻に成て過ぎけり。
※『愚管抄』第六巻より(読みやすく改行したり、カナ→かな、に直したり、脱字を補ったりなどしています。以下同じ)
【意訳】時政は若い妻をもらい、多くの娘を産ませた。
彼女は大舎人允宗親(おおとねりのじょう むねちか。演:山崎一。牧宗親)の娘で、時政との結婚によって兄弟の大岡判官時親(おおおか ほうがんときちか)は五位尉に出世した。
この宗親は平頼盛(たいらの よりもり。平清盛の異母弟)に仕えて駿河国大岡牧を拝領した。武士ではなく、これと言った手柄もないが、こんな厚遇は不思議なことだ。
娘婿の一人に平賀朝雅という源氏の者がおり、これは大内惟義(おおうち これよし)の弟だ。源頼朝(演:大泉洋)の猶子になったと聞く。
この朝雅を京都の後鳥羽上皇(演:尾上松也)に近づかせ、御笠懸が行われた時もご機嫌伺いなどに遣わした。
他の娘たちもみんな公暁や殿上人などに嫁がせ、出世の足掛かりとしたものである。
……大河ドラマでは言及がないものの、りくはたくさんの娘を産みました。それぞれ平賀朝雅ほか稲毛重成(演:村上誠基)・宇都宮頼綱(うつのみや よりつな)・坊門忠清(ぼうもん ただきよ)らに嫁いでいます。
時政は娘の一人を坊門忠清(実朝の正室・坊門姫の兄)に嫁がせることで鎌倉将軍家や朝廷との結びつきを強め、また稲毛重成(武蔵国)や宇都宮頼綱(下野国)といった有力豪族とも連携しました。
文中「皆公卿殿上人(公卿は三位以上、殿上人は五位以上の上級貴族)どもの妻に成て」とあるため、もしかしたらまだ他にも娘がいて嫁がせた可能性も考えられます。
劇中、継子の実衣(演:宮澤エマ)に対して「あなたはまだ若いから10人(子供を産みなさい)!」と言い放ったのは伊達ではありませんね。
ところで、大河ドラマでは牧宗親はりくの兄として紹介されましたが、『愚管抄』では父という設定に。宗親の息子・大岡時親は時政の姻族となったことで出世を遂げました。
さて、娘婿たちの中でも特に期待を寄せたのが源氏の血を引く平賀朝雅、彼を後鳥羽上皇に近づかせて京都と鎌倉のパイプ役とします。
溺愛していた嫡男・北条政範(演:中川翼)亡き今、望みを託せるのは朝雅ただ一人。そして執権・北条の跡目よりも源氏の血筋をもって鎌倉殿に……りくの野望は燃え上がるのでした。