歌人・僧正遍昭と絵師・鈴木春信の心の闇「蓮は泥より出でて泥に染まらず」とは思えなかった?:2ページ目
浮世絵の内容について
絵の内容を見ていくと、揚げ帽子を被った奥女中の女性と思われる人物が二人、石橋の上に立ち蓮の花を眺めています。眺めているというよりは在るものを見ているようでもあります。
季節は梅雨も終わるか終わらぬかという頃で、一人の女性は手に傘を持ち、二人ともが蒸し暑いのか扇子を手にしています。
二人の女性の視線の先を追うと、真下に蓮の葉があります。
左側に立つ女性の真下の蓮の葉の上にだけ、中央に露の玉が描かれているのです。また女性の表情に着目してみると、
鈴木春信に描かれる人物には表情がないと言われることがあります。しかしこの女性の目を見てみると、蓮の露をみて何かもの思うようにも見えます。
僧正遍昭とは
遍昭(へんじょう)は、弘仁7年(816年)に生まれた平安時代前期の僧・歌人であり。俗名は良岑 宗貞(よしみねの むねさだ)です。
桓武天皇の孫という高貴な生まれで、仁明天皇に仕えたました。
850年に仁明天皇が崩御すると出家し、70歳の時に僧正となりました。そして僧正遍昭の名で知られるようになります。
六歌仙および三十六歌仙のうちの一人です。
35歳という若さで出家した僧正遍昭は大変な美男子だったようで、女性に好意を持たれることが多かったようです。百人一首で取り上げられている歌も、
天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ 乙女の姿 しばしとどめむ
“天空の風よ、天上と地上を結ぶ道をとざしておくれ。美しい天女の舞を、今しばらくみていたいから”
というロマンティックな歌です。
ただしこれは出家前に詠まれた歌であり、僧正遍昭は出家前と出家後の和歌の傾向が変わった言われています。
まとめ
天皇の孫という高貴な立場にありながら、自ら出家して僧となり、“僧正”という位の高い僧となった僧正遍昭。
きっとその人生の中で色々なものを見聞きしてきたことでしょう。そのような高僧である人物が詠った歌がこの歌なのです。
蓮(はちす)葉の にごりにそまぬ 心もて なにかは露を 玉とあざむく
“真の悟り、真の聖、真の心の清浄を得るということ”がどれほど困難なことであるか、ということではないかと筆者は読みましたが、皆さんはどうでしょうか。
(完)