歌人・僧正遍昭と絵師・鈴木春信の心の闇「蓮は泥より出でて泥に染まらず」とは思えなかった?
7月の誕生花が“蓮の花”だとはご存知でしたか?7月から8月の半ばに見頃を迎えます。
江戸時代の浮世絵師、鈴木春信(すずきはるのぶ)の作品の中にも蓮の花を描いたものがありますのでご紹介しましょう。
蓮は泥より出でて泥に染まらず
上掲の浮世絵は鈴木春信の描いた『風流六哥仙 僧正遍昭』です。
作品の上部に僧正遍昭の和歌が書かれています。
蓮(はちす)葉の にごりにそまぬ 心もて なにかは露を 玉とあざむく
これを訳すと以下のような意味になります。
“蓮の葉は、泥水の中に生えながら濁りに染まらない清らかな心を持っているのに、どうして葉の上に置く露を玉と見せて人をだますのか”
「蓮は泥より出でて泥に染まらず」という言葉をご存知の方は多いと思いますが、『法華経』という仏教の経典の中では「世間の法に染まざること蓮華の水に在るが如し」と記されており、これがこの和歌の根底にあります。
釈迦が自ら説法をした『阿弥陀経』の中では
池の中に蓮華あり、大きさ車輪の如し
(阿弥陀経)
とあり、極楽浄土には蓮の花が咲いており、蓮の花は「蓮華の五徳」という極楽浄土に生まれることのできる条件を兼ね備えていると花だとさえ言われているのです。
それを“どうして葉の上に置く露を玉と見せて人をだますのか”と詠うとは、意味の深い歌だと思われます。
しかし、鈴木春信はこの和歌を選んだのです。この和歌に共感する部分があったからではないでしょうか。
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