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絆を育む「首の血の酒」…戦国時代、三河武士を心服せしめた松平清康のエピソード

絆を育む「首の血の酒」…戦国時代、三河武士を心服せしめた松平清康のエピソード:2ページ目

さて、そんな事があった帰り道、家臣たちは口々に話し合ったと言います。

「しかし驚いたな、まさか御屋形様のお酌と御定器で酒をいただこうとは……」

「どれほど宝物を積まれたとて、此度の御恩には替えがたい!」

あの酒は、我らが首の血じゃ。命を懸けて奉公する、誓いの酒じゃ」

「そうじゃ。御屋形様の深き御情(おんなさけ)に報いてこそ、三河武士の面目であり、冥途のよき土産となろうぞ!」

それからと言うもの、大いに奮起した家臣たちが清康と共に戦ったのはもちろん、天文4年(1535年)12月5日に清康が暗殺されて(森山崩れ)松平家が没落した後も、その再興に尽力したのですが、そのエピソードはまた別の機会に。

部下を「戦わせる」か、共に「戦う」か

最後に、私事で恐縮ながら、海上自衛官時代にある上官の話を聞いた時、このエピソードを思い出しました。

「お前は海士(≒兵士)で俺は幹部だが、別にお前が卑しい訳でも俺が尊い訳でもなく、ただそれぞれ役目が違うだけで、共に日本の平和と独立を守る目的は一緒だ」

上官は部下を「戦わせる」のではなく、手段こそ違えど、部下と共に「戦っている」……その意識があったからこそ、清康は頑固な三河武士たちを心服せしめ、その資質は孫の竹千代(たけちよ。後の家康)にも受け継がれていったようです。

※参考文献:
小林賢章 訳『現代語訳 三河物語』ちくま学芸文庫、2018年3月
菅野覚明『武士道の逆襲』講談社現代新書、2004年10月

 

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