戦国時代、殺された恋人の仇討ちをした悲劇の烈女・勝子の最期【前編】:2ページ目
逃げた七郎左衛門を追って……。
「……八弥様!」
最愛の許婚を喪った勝子は悲嘆にくれましたが、ここで泣き寝入りしてしまっては、武家の妻として面目が立ちません。
「下手人は七郎左衛門殿に違いありませぬっ!」
周囲の証言などからそう突き止めた勝子は、主君・信勝を通じて佐久間家に抗議の使者を発しましたが、信盛はとりあってくれません。
「あいにくじゃが、七郎左衛門は先刻より行方知れずでのぅ……」
聞けば七郎左衛門は逃げ出してしまったそうで、「(一応)手を尽くして捜索している」とは言うものの、一族ぐるみで匿っているのは明らかです。
「佐久間(信盛)様は当てになりませぬ……どうか私に、お暇を下さいませ!」
七郎左衛門を探すため、暇乞いを申し出る勝子でしたが、信勝はか弱い女性が厳しい旅路に耐えられるかを案じ、もし見つかったところで、むざむざ返り討ちに遭っては忍びないと、なかなか許可を出してくれません。
「やたら滅法に歩き回っても、いたずらに時を費やすばかり……今は八弥の喪に服し、せめて七郎左衛門の情報が入ってから行動を起こしても遅くはあるまい」
「はい……」
信勝が心から自分を案じてくれているのを振り切ることも出来ず、鬱々とした日々を送っていた勝子の元へ、七郎左衛門の消息情報が入ったのでした。
「聞けば彼奴めは、美濃国(現:岐阜県南部)の斎藤家におるとの事じゃ」
こうなったらもう信勝も引き留めることはできず、勝子は名前を変え、美濃国の大名・斎藤竜興(さいとう たつおき)夫人の侍女として潜伏することに成功します。
「……奥方様。不束者ではございますが、どうかご指導ご鞭撻のほど……」
(おのれ、にっくき七郎左衛門……その首洗って待っておれ……!)
虎視眈々と仇討ちの機会を窺っていると、やがて斎藤家中で流鏑馬(やぶさめ)大会が開催されることになりました。七郎左衛門も出場するそうです。
(……好機到来!)
勝子は用意していた匕首(あいくち。短刀)を懐中に忍ばせ、七郎左衛門の首を狙うのでした……。
※参考文献:
保田安政『婦女必読 修身事蹟 全』目黒書店、1891年11月