聖人君子のウラの顔?綏靖天皇の「食人趣味」は本当か、説話「神道集」の伝承を紹介:3ページ目
彼らは本当に「食べられた」のか?
Never attribute to malice that which is adequately explained by stupidity.
【意訳】間違いで説明がつくことに、悪意を決めつけてはならない。byロバート・J・ハンロン「ハンロンの剃刀」より。
以上、ちょっと穿った見方をしてみましたが、もしかしたら『神道集』の筆者や伝承者にも悪意はなく、古文を読んだ上で誤解があった可能性も考えられます。
古い大和言葉を読んでいて、誤解のキッカケ?として気になるのが「聞食」という言葉。これは「きこしめす」と読んで「お聞き召される=下さる」ことを意味し、現代でも祝詞(のりと)などによく使われます(機会があったら、耳を澄ますと楽しいですよ)。
もしかしたら、筆者たちはこの「食」を文字通り「食べる」と解釈し、また「聞」は「お香を聞く(香りを嗅ぐ)」のように「味わう、楽しむ」などと解釈し、綏靖天皇が「人々を味わって食べていた」かのように誤解してしまったのかも知れません。
もし、綏靖天皇が朝と夕方に7人ずつ「聞食」していたとするなら、この場合は彼らの肉を食べていたのではなく、「7人からそれぞれ意見を傾聴して、施政の参考にしていた」と考えた方が自然ではないでしょうか。
一生懸命に民衆の意見を聞き入れていたら、いつしか彼らを喰い殺していたことにされてしまった(かも知れない)綏靖天皇……真相の究明にはまだ時間がかかりそうですが、その事績がなるべく善意に評価されることを願っています。
※参考文献:
平野邦雄ら監修『日本古代氏族人名辞典』吉川弘文館、2010年11月
西尾光一ら編『中世説話集 古今著聞集・発心集・神道集』角川書店、1977年5月