軟弱男はお断り!幕末明治に活躍した「男装の麗人」高場乱の結婚:2ページ目
小さな体躯に漲る武士の魂
女性としては極めて異例となる帯刀も正式に許可されたのですが、小柄で華奢な乱の体躯には甚だ不釣り合いで、中にはその姿をバカにする者もいたようです。
「おいチビ、その刀は飾りかよ?」
往来ですれ違ったガキ大将が、手にしていた薪雑把(まきざっぽう)で、乱の刀を小突きます。
「無礼者!」
侮辱に腹を立てた乱はすかさず抜刀、その切先をガキ大将に突きつけました。よもや抜くまい(あるいは抜けまい)とタカを括っていたガキ大将は俄かに怯み、道行く人々もざわつき始めます。
「各々方……この者は拙者の刀を飾りと吐(ぬ)かした!飾りであれば斬りつけても血は出なかろう……どうかご検分下され!」
言うなり乱は一刀を斬り下ろし、ガキ大将の薪雑把を両断します。
「あわわわ……」
「逃げるなよ、小童?これは『飾り』じゃ……よもやその方『飾り』を恐れはするまいな……?」
いったん跳び退(すさ)って距離を取り直した乱は、刀を構えながらジリジリとガキ大将に肉薄します。
「うぬが素っ首、血で飾れ!」
「ひえぇ……っ!」
乱が刀を大上段に振りかぶるや、ガキ大将は泣きながら転がるように逃げていったのでした。
以来、乱のことを(小柄な女の子と)侮る者はいなくなり、一人前の武士として一目置かれるようになったということです。
「女性に戻れ!」父の命により、男性同士で結婚?
そんな乱に縁談が舞い込んだのは、17歳となった弘化四1847年。父・正山がこんなことを言い出しました。
「乱よ、婿をとれ!」
「はぁ?!」
生まれてこの方、自分を女性と思ったことがなかった乱にとって、今さら「女性に戻れ」と言われても困惑するばかりです。
「実は、そなたを男として育てたことを後悔する夢を見てから、寝覚めが悪くてかなわん。やはり女子(おなご)は女子として生きるのが人間のあるべき姿……そういう訳で、これより女子に戻って婿をとるのじゃ!」
「え、えぇ~……」
理不尽この上ない申しつけではあるものの、家長の命は絶対……そこで仕方なく、乱は生まれて初めて女装(花嫁衣裳)に身を包み、婚儀に臨んだのでした。
(……何だ、この男は……!)
迎えた花婿の面貌と言えば、泰平の世にふやけ切った柔和そのもの……乱の心底げんなりした顔が目に浮かぶようです。
(これじゃ、どっちが女だか分かったモンじゃない!)
往時の武士たちは衆道(しゅどう)を嗜み、男性同士で愛し合ったと言うが、それは共に命を預け合う同志の絆を深めるための営み……こんな男に命はもちろん、家運を託してなどなるものか……!
そう思い決めた乱は、花婿を試すことにしました。
3ページ目 「問う。そなたの男根は……」乱が突きつけた三行半