えっ、そんなことを和歌に?意外とお下品な最古の和歌集「万葉集」の世界:2ページ目
あらま、こんな歌が『万葉集』に
しかし、「雅で上品、風流」だけが和歌の全てではありません。『古今和歌集』よりも古い時代に編纂された、最古の和歌集である『万葉集』には、ビックリな内容の歌も取り上げられているのです。その歌は「巻16 雑歌」の3842番目に登場する一句です。
「或ヒト云ク 平群(へぐり)朝臣が穂積朝臣を嗤咲ける歌一首」という詞書に続き、
「童ども 草はな刈りそ 八穂蓼を 穂積の朝臣が 腋草を刈れ」
(草を刈っている子供達、穂の沢山ある蓼の草はもういいから、穂積朝臣の臭い腋の下の草を刈れよ)
「平群朝臣」という人が「穂積朝臣」という人を「ワキガ」と嘲笑った歌であることが分かります。優雅で上品な「和歌」のイメージを一気に崩してしまう歌であることは、間違いありません。
この歌に続く3843番の歌は、「穂積朝臣が和ふる歌一首」という詞書が添えられ
「いづくにぞ ま朱掘る岡 薦畳(こもたたみ) 平群の朝臣が 鼻の上を掘れ」
(仏像の鍍金をする時に使う「真朱」が足りないのならば、平群朝臣の赤鼻の上を掘ればいい)
穂積朝臣が、鼻の赤い平群朝臣を嘲笑い返した歌となっています。「ワキガ!」「何だよ赤鼻!」という、子供のケンカのようなやり取りですね。
バラエティに富んだ歌人たち
『万葉集』に雅で風流ではない歌も取り上げられた背景には、さまざまな身分の人々がそれぞれのシチュエーションで詠んだ、多彩な歌が取り上げられたことが影響しています。
収録された歌人は、天皇や貴族だけでなく、身分の低い官人や「防人」と呼ばれる九州沿岸の防衛のために派遣された軍人など、幅広い身分の人びとでした。中には「方言」で詠まれた歌も含まれており、「作者の出身地」の記載された歌もあることから、「方言学」の貴重な史料とされることもあるほどです。
全部で4500首以上の歌を収録した『万葉集』は、実はさまざまな楽しみ方のできる和歌集なのです。