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紫式部が藤原道長の娘の懐妊から出産までを克明に記録。重要史料『紫式部日記』ができるまで【光る君へ】

紫式部が藤原道長の娘の懐妊から出産までを克明に記録。重要史料『紫式部日記』ができるまで【光る君へ】:3ページ目

謎の憂鬱

しかし、誕生した我が子に対面するべく、一条天皇が土御門殿に行幸(天皇が内裏から出ること)する日が近づいたある日、紫式部は憂鬱な胸の内を日記に吐露しています。

この憂鬱の理由ははっきり分かりませんが、それを記している文章を以下で引用しましょう。

まして、思ふことの少しもなのめなる身ならましかば、すきずきしくももてなし、若やぎて、常なき世をも過ぐしてまし。めでたきこと、おもしろきことを見聞くにつけても、ただ思ひかけたりし心のひくかたのみ強くて、もの憂く、思はずに、嘆かしきことのまさるぞ、いと苦しき。

(まして、私の物思いがせいぜい人並みの身であったら、風流に若やいでこの世の無常を過ごすことでしょう。でも私は、素晴らしいことや趣のあることを見たり聞いたりしても、ただ思いつめた心に強く引かれてしまい、憂鬱で、思いのほか、嘆かわしいことのほうが多くなり、とても苦しいのです)

いかで、今はなほ物忘れしなむ、思ひ甲斐もなし、罪も深かんなりなど、明けたてばうち眺めて、水鳥どもの思ふことなげに遊び合へるを見る。
(どうにかして、今はもう何もかも忘れてしまおう。思い悩んでも仕方なく、罪深いことだなどと考えて、夜が明ければ外を眺め、水鳥たちが思い悩むこともなさそうに遊び合っているのを見る)

水鳥を水の上とやよそに見む われも浮きたる 世をすぐしつつ
(水鳥たちをただ水の上で遊んでいるのだと、よそごとに見ることができるでしょうか。私も水に浮いたような、落ち着かない日々を送っているのです)

かれも、さこそ心をやりて遊ぶと見ゆれど、身はいと苦しかんなりと、思ひよそへらる。
(水鳥も、あのように気ままに遊んでいるように見えるけれど、その身になってみればとても苦しいのだろうと、自分と引き比べて考えてしまう)

紫式部の心の内にある「もの憂く、思はずに、嘆かしきこと」とは何でしょう。「いかで、今はなほ物忘れしなむ」と思うこととは、いったい何だったのでしょう。

この年、紫式部は30歳くらい。この謎めいた部分に、大河ドラマ『光る君へ』の今後の展開につながっていきそうな余地を感じますね。

藤原道長と想いを通わせていた紫式部が、その道長をパトロンとして『源氏物語』を書き進めて、しかも彼の娘の懐妊から出産までを見守るのですから、複雑なドラマが生まれるのも当然と言えそうです。

参考資料:
歴史探求楽会・編『源氏物語と紫式部 ドラマが10倍楽しくなる本』(プレジデント社・2023年)

トップ画像:紫式部日記絵巻より(出典:Wikipedia)

 

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