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神さま仏さま泰時さま!天下の名宰相・北条泰時が飢饉に苦しむ領民を救ったエピソード【鎌倉殿の13人】

神さま仏さま泰時さま!天下の名宰相・北条泰時が飢饉に苦しむ領民を救ったエピソード【鎌倉殿の13人】

債務者たちが見ている前で……

ちなみに、泰時が「急用」と言っていたのは強がりではなく、本当に大事な用がありました。

「さて、どうしたものか……」

10月5日に伊豆北条へ到着した泰時は、その「急用」を片づけるための段取りを組みます。

実は領民たちへ貸しつけていた種籾(たねもみ)の取り立てを、父・江間小四郎義時(演:小栗旬。北条義時)に命じられていたのです。

昨年は凶作だったため、今年の春に作付(さくつけ。田植え)する稲の種籾を五十石ばかり貸しつけたところ、8月の台風によって今年も不作。

年貢すら満足に納められない状況ですから、とうぜん種籾なんて返せません。返済期限が迫る中、もう首が回らないから夜逃げしようか……そんな領民たちを、何とか思い留まらせねばなりません。

一計を案じた泰時は翌10月6日、本件の債務者数十名をすべて館に招集しました。みんな呼ばれる心当たりがあり過ぎるので戦々恐々、種籾を返せ戻せと責め立てられるのだろうと気が気ではありません。

しかし出てきたのは飯に酒。いったい泰時は、何を考えているのでしょうか。

「本日はお忙しい中、ようこそお集まり下さいました。お席に用意してある飯や酒は気持ちですので、どうぞお上がり下さい」

そして債務者全員の借用証文を持って来ると、みんなが見ている前でこれを焼き捨てたのです。どうしてでしょうか。

「皆さんが苦しいのは重々承知……そこでただいま証文を焼き捨てたとおり、春に貸しつけた種籾についてはなかったことといたします。もし今年が豊作であったとしても、改めて返せとは申しません」

泰時はさらに一人あたり一斗(約15キロ)の米をお土産に持たせたと言います。負債を帳消しにしたばかりか、生活支援の米まで配るとは……領民たちは感謝感激、神さま仏さま泰時さま……とばかり手を合わせたということです。

「……話は分かった。しかし、なぜそうした?」

10月10日、鎌倉へ戻ってきた泰時は、義時に訊ねられました。我が家だって決して楽ではないのに……恨みがましい義時に、泰時は答えます。

「はい。領民たちに返済能力がない以上、いくら取り立てようが返って来ないからです。それでも強引に取り立てようとすれば、彼らは逃げ出して我らが悪評を各地へばらまくでしょう。それよりは気持ちよく帳消しにしてやった方が領民の信頼を得られます」

「なるほど。では、一人一斗の米を与えたのは?」

「もちろん債務の帳消しだけでも十分に太っ腹とは思いますが、さらに生活支援の米を与えることで恩を売り、彼らの逃亡や犯罪を防ぐ効果が期待できます」

「ふむ」

「恩を売られた相手は、こっちが思っているほど恩を覚えていないもの。せっかく恩を売っても、中途半端ではすぐに忘れられて売り損です。そこで此度はこれまでにない恩を大盤振る舞いしたのです。この投資は、きっと何倍にもなって回収できるでしょう」

「言われてみればもっともだ。太郎よ、でかしたぞ」

「ははあ……」

かくして領民は生活を立て直し、泰時は大いに名声を高めることとなったのでした。めでたしめでたし。

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