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トンデモか否か!?意外と根強く残っている「武将・上杉謙信は女性」説を整理してみる【後編】

トンデモか否か!?意外と根強く残っている「武将・上杉謙信は女性」説を整理してみる【後編】:3ページ目

④恋愛ものが好きだった謙信、瞽女(ゴゼ)歌の存在

「女性説」の傍証の一つとして、謙信が『源氏物語』や『伊勢物語』などの恋愛ものを好んでいたことも挙げられます。また、彼は歌会で恋歌を披露したこともあり、さらにその筆跡もとても女性的なものだったとか。

ただ、これをもって謙信が女性だったとするのもやや無理がありますね。恋愛ものを好み、恋歌を詠み、筆跡が女性的である男性がいてもおかしくありません。これはあくまでも傍証と言えます。

最後に、おまけのような論拠ですが、当時、謙信のことを「男もおよばぬ大力無双」と歌う瞽女(ゴゼ)がいたそうです。

この歌詞は『越後瞽女屋敷・世襲山本ごい名』という本に載っていると八切氏は述べているようですが、この本の存在は確認されていません。

以上が、「上杉謙信=女性」説の論拠です。

ところで、では謙信が女性だったとしたら、なぜ史料には男性として描かれているのか? という問題ですが、これは江戸時代の武家諸法度に理由があると言います。

武家諸法度では、女性の城主が認められていませんでした。よって、外様大名の上杉家の当主がかつて女性だったということで難癖をつけられないよう、謙信が女性だったことを示す証拠を隠ぺいしたのだというのです。

ただこの説も、素人目にも「記録を隠蔽しても、謙信が女性だったことは何らかの形で一般に知られているのでは?」という気がしますね。武家諸法度が定められる前には、謙信が女性だったことを隠す必要はなかったことになりますから……。

もちろんこういった疑問点などは、既に本職の学者・研究者が論じ尽くしているので、ここでは深く突っ込みません。

「上杉謙信=女性」説は、発想としてはとても面白いからか、今も俗説として根強く知れ渡っています。しかし、その論拠を改めて見ていくと、説得力に欠ける部分も多いですね。

とはいえ、疑問点や矛盾点があるからその説には価値がない、とは必ずしも言えないのが歴史の面白いところです。

歴史は「史実と矛盾していても面白ければいい」ところがあり、面白いストーリーであるほどかえって一般には受け入れられやすいものです。

実は、歴史を巡る説の価値基準には「真実かそうでないか」とは別に「面白いかそうでないか」というという物差しも存在しています。

「上杉謙信=女性」説は、後者の物差しで測るべきものなのかも知れません。

 

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