何時の世にも桜は咲き散る。宮中の官女たちが桜を題材に好み楽しんだ「連歌」とは何か?:2ページ目
「宦女桜筵連歌ノ図」で見る連歌会の規則などについて
それでは「宦女桜筵連歌ノ図」を参考にして「連歌会」がどのように行われるのか見ていきましょう。
部屋の中央に小さな桜の木とも言えそうな桜が活けられています。その周りに官女たちが座しており、硯の乗った小さな文机が3つ用意されています。この連歌会の出席者は3人のように見えますが。
発句(ほっく)
上掲の絵の左下の官女が、よく見ると手に文字が書かれた短冊を持っています。
この短冊の上部が紫色に染められています。これは絵の中で“釵子(さいし)”と呼ばれる装飾具を額の上に載せ、紫色の“打掛”を着て立っている官女の短冊でしょう。この官女が部屋にいる官女の中で最高位の人と思われます。
連歌で一番最初に詠まれる長句(五七五)を【発句(ほっく)】と言います。普通は出席者の中でも“高位にある人”や“主客”が詠みます。
つまりこの絵の連歌会で発句を詠んだのは、紫色の打掛を着た最高位の官女であり、この連歌会の出席者は少なくとも4人です。
発句は“挨拶句”とも呼ばれ、その日の季節を表す季語を入れることが基本です。連歌ではその発句の季語をもとにして、季節の流れを表現していきます。
脇句(わきく)
発句に続けて次の人が読む短句(七七)を【脇句(わきく)】と言います。「客発句、脇亭主」と言われ、その日の連歌会の主催者である亭主が脇句を読むのが普通です。
脇句を読む人は、発句の中に込められた作者の想いを察知して歌の言外にある余情などを脇句に詠みます。それが“おもてなしの心遣い”なのです。
さて、この絵に描かれた官女の中で脇句を詠んだのは誰でしょうか。
筆者はこの絵の左端から3番目の、歌が書かれた短冊を左にいる官女に見せて『このような歌はどうでしょうか』とでも話しかけているような官女が脇句を詠んだのではないかと思います。
ここで描かれている連歌会は内々の宴です。客人を招いて亭主が詠むという会ではないので、まだ連歌会の場数が少ない官女に脇句を詠ませたのではないでしょうか。
そのうえ連歌作りに参加していない他の官女たちも、この官女を指差したり、見たりして『どんな句が出来たのかしら』とでも思っているようです。
絵の一番左側に座している官女は脇句を『そうきたか』と思っているようでありながら、その先を見ている余裕があるように見えます。
第三句
文字通り“脇句”の次に詠まれる三番目の長句が【第三句】です。【第三句】はその日の連歌会の全体的な流れや方向づけをする非常に重要な句です。
脇句からガラッと雰囲気を変えることも出来るのは【第三句】。この句を詠むのは誰でしょうか。
筆者は絵の一番右端に座しているこの官女だと考えます。短冊を手にして、第三句の重要性を理解しつつ、気を集中して歌を考えているような表情をしています。