夫と息子の仇討ちに男装して出撃!戦国時代、加藤清正を追い詰めた男装の女武者・お京の方【四】:2ページ目
夫と息子の仇討ちに、男装して出撃!
「……そうですか……」
本渡城で正親と嫡男・傳九郎(でんくろう)の訃報に接したお京の方は、侍女に命じて次男を逃がし、自身は甲冑に身を固めます。
「お方様……いったい何を?」
「知れたこと……夫の仇をとるのが肥後国衆が妻たる務めぞ!」
とは言え、最初から女性だと敵に知られては侮りを受けようから、長い黒髪を兜の中へまとめ込み、面頬(めんぼお。顔面を覆う防具)をつけて男装しました。
「者ども、撃って出るぞ!続け!」
いつの間に習ったのか、颯爽と騎乗したお京の方は本渡城より出陣、その狙いは夫と息子の仇・加藤清正ただ一人。
「やぁやぁ遠からん者は音に聞け……近くば寄って目にも見よ……我こそは三位入道源頼政(さんみにゅうどう みなもとの よりまさ)が後裔にて、肥後国にて数々の武功を顕せし木山弾正正親!命の要らぬ者よりかかって参れ!」
まるで正親が憑いたかの如く声高らかに名乗りを上げたお京の方に、清正の軍勢は「よもや、佛木坂で討った筈の弾正が甦ったか」と胆をつぶし、祟られてはたまらないと我先に逃げ出しました。
「今ぞ、者どもかかれ!」
「「「おおぅ……っ!」」」
戦さは必ずしも数の多い方が勝つとは限らず、気を呑んでしまえば十倍する敵を討ち滅ぼした例(ためし)もあります。勢いに乗ったお京の方たちは、一丸となって清正一人を狙います。
「退け、退け……っ!」
清正が命じるまでもなく軍勢は総崩れ、グイグイ距離を詰めてくるお京の方から逃げるのに必死です。
「ひぃ……っ!」
もう生きた心地がしない清正の背中を、お京の方の槍先が捉えていました。
【続く】
※参考文献:
国史研究会 編『国史叢書. 將軍記二 續撰清正記』国史研究会、1916年
戦国人名辞典編集委員会『戦国人名辞典』吉川弘文館、2005年
松田唯雄『天草温故』日本談義社、1956年