信長だけが織田じゃない!マイナー織田家に仕えて信長に対抗した戦国武将・角田新五【上】:2ページ目
秀孝を射殺してしまった才蔵、信次の決断は……
「こちらは守山城主・織田右衛門尉こと孫十郎信次様ぞ!どなたかは存ぜぬが、御前(ごぜん)を過ぐるに下馬せぬとは無礼であろう!」
彼の名は洲賀才蔵(すが さいぞう)。弓の名手として召し抱えられたものの処世術には疎く、卑怯な振る舞いを許せない性格でした。
「おい才蔵、よさぬかっ!」
「しかし……」
「はーっはっは……!」
うぬら如きに名乗るほど卑しき名ではない……そうとでも言いたげに呵々大笑するばかりで取り合わぬ秀孝に、才蔵は堪忍袋の緒が切れてしまいます。
「うぬっ……人も無げなる振る舞い、断じて許せぬ……っ!」
満月の如く引き絞った弓から射放たれた才蔵の矢は真っ直ぐ秀孝の胸に突き立ち、程なくその上体がぐらりと揺らぐと、馬上から河原に転げ落ちて飛沫を上げました。
「才蔵、何と言う事を!あの方は三郎(信長)様の弟君・喜六郎(秀孝)様ぞ!」
「……あぁ……誠に申し訳ございませぬ!」
我に返った才蔵は、己が非を詫びて自害を図りますが、信次はそれを制して言いました。
「いや……此度の一件は我が身の不徳ゆえ……むしろそなた達に、このような屈辱を感じさせてしまったこと、心から忍びなく思う。許せ」
信次は短刀を握った才蔵の手を、両手で丁寧に包みながら深く詫びます。
「……御屋形様!」
「そなたのような忠義の士を喪うは天下の損失……早急に身を隠し、時期を待つのじゃ」
「しかし、それでは御屋形様が……」
「わしの心配なら無用じゃ。さぁ、早くゆけ!」
「この御恩……決して忘れませぬ!」
深々と頭を下げて駆け去って行く才蔵を見送ると、信次は言いました。
「……さて、わしも逃げると致そう」
そのセリフを聞いて、家臣たちは一同騒然となります。何だよ……才蔵の心意気に打たれてちょっとカッコつけたかと思ったら、やっぱり信長の勘気が恐ろしかったようです。
「しかし……才蔵はともかく、御屋形様まで逃げられてしまっては、我らは一体どうすれば?!」
「知らぬ、『後は新五に任せる』と伝えよ……とにかくわしは逃げる!」
「「「えええーっ?!」」」
僅かな供廻りを引き連れて逃げ出す信次……取り残された家臣たちは、一目散に守山城へと逃げ帰ったのでした。
※参考文献:
和田裕弘『信長公記―戦国覇者の一級史料』中公新書、2018年
谷口克広『織田信長家臣人名辞典』吉川弘文館、2010年