おったまげ!日本の近代化に挑戦した幕末の天才奇人・佐久間象山かく語りき:2ページ目
役人たちもおったまげた?象山先生かく語りき
……が、結果は大失敗。鋳込みの精度にまだムラがあり、砲身が火薬の爆力に耐えきれず、破裂してしまったのです。
「ゴホッゴホッ……」
松前藩の役人たちはもちろん、見物に押し寄せた観衆たちの面前で、象山は大恥をかいてしまいます。
大玉池(おおたまげ) 砲(つつ)を二つに 佐久間修理(しゅり)
この面目を なんと象山【意訳】これはおったまげた!大砲を真っ二つに裂いてしまって修理のしようもない。丸つぶれな面目を、何としようものだろうか……
大玉池とは象山の住まいがある「お玉が池」を「おったまげ」にかけ、砲(つつ)を「つ」と「つ」の「二つ(つ×2)」に裂いてしまったことにかけています。修理(修理大夫)とは象山の受領名(非公式の官職)です。
「「「どわっはっはっはっは……!」」」
日ごろ頭の良さをひけらかし、威張り散らしていた象山の大失敗……彼を快く思わない者たちは、ここぞとばかり大笑いしたものですが、今回のスポンサーとなっていた松前藩としては、笑いごとではありません。
「何じゃ、あれだけ大口を叩いておきながらこの不始末……覚悟は出来ておろうな!」
カンカンに怒り狂う役人たちを前に、言うも言ったり象山先生。弁解をするどころか、逆に役人たちをりつけます。
「バカモノ!これは失敗ではなく『成功への過程』だと言うことが解らんのか!どんな事業であっても試行錯誤を繰り返しながら方針を修整し、課題を乗り越えて成功へと至るのだ!」
そりゃ確かに正論ですが……やらかしてしまった張本人が言うのはさすがにどうかと思うし、今回の損失は金額も金額です。
「バカモノ!そもそも君たちが予算をケチり過ぎなのだ!失敗とは、ちょっと上手く行かなかったからと投げ出した者の泣き言に過ぎないのだ!さぁ、もっと予算をよこしたまえ!必ずや日本で初めての洋式大砲を造り上げてみせるぞ!」
「い、いやぁ……『見切り千両(※)』とも言いますし……」
(※)勝てる見込みが薄いと思ったら、いっそ諦めた(見切った)方が損失も少なく、結果として千両の価値があるとしたことわざ。
結局、鋳鉄製の国産大砲はもうしばらく先のこととなりますが、その態度はともかく、新たな時代を自ら切り拓こうとする象山の心意気は見習いたいところです。
※参考文献:
東徹『佐久間象山と科学技術』思文閣、2002年5月
松本健一『評伝 佐久間象山』中公叢書、2000年9月