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大河ドラマ「どうする家康」史実をもとにライター角田晶生が振り返る 戦国時代、合戦にもルールがあった!小田原・関ヶ原の戦いを前に、徳川家康が発した軍令がこちら【どうする家康】

戦国時代、合戦にもルールがあった!小田原・関ヶ原の戦いを前に、徳川家康が発した軍令がこちら【どうする家康】

家康のお達し~関ヶ原編~

軍法之事

一、喧嘩口論堅令停止畢、若違背之輩においては、不論理非、雙方可令成敗、其上或は傍輩、或は知者之好みを以令加担者、本人より曲事の間、急度可令成敗、若令用捨者、縦雖後日相聞、其主人可為曲事事

一、味方の地において放火乱妨狼藉仕においては、可加成敗事、附 於敵地男女乱取すべからざる事

一、味方の地、作毛を取ちらし、田畠の中に陣取儀堅停止之事

一、先手へ断らずして物見を出儀、かたく令停止事

一、先手を差越雖令高名、背軍令の上は可成敗事

一、仔細なくて他の備に相交輩有之ば、武具馬具共可取之、しかるに其主人及異議ば共に可為曲事事、但於有用所は、其備へ相ことわり可通事

一、人数押の時、わき道すべからざる由可申付、若みだりに通るに付ては可加成敗事

一、諸事奉行人の指図を違背せしめば、可令成敗事

一、時の使としていかようの人を雖指遣、不可違背、若右之旨をそむくにおいては、可為曲事事

一、持槍は軍役の外たるの間、長柄を差置もたせ候事堅停止候、但長柄の外もたしめば、主人馬廻りに可為一本事

一、於陣所馬を取はなす義、可為曲事事

一、小荷駄之儀は兼て可相触之条、軍勢に不相交様にかたく可申付、若みだりに可相交ば可成敗事

一、諸商売押買狼藉かたく令停止畢、若於違犯之族は可令成敗事

一、於陣中人返候事、一切令停止事

一、無下知而於陣払仕者、可為曲事事

右之条々違犯之輩者、無用捨可加成敗者也

慶長五年七月七日     御朱印

【意訳】

一つ、喧嘩口論、堅く停止(ちょうじ)し畢(おわん)ぬ。もし違背の輩(ともがら)においては、理非を論ぜず、双方成敗せしむべし。

その上あるいは傍輩、あるいは知者のよしみをもって加担せしまば、本人より曲事(くせごと)の間(かん)、きっと成敗せしむべし。

もし用捨せしまば、たとい後日相聞うといえども、その主人曲事となすべきこと。

※言い回しがカッコいいので、最初の一条だけ読み下してみました。

⇒喧嘩や口論は堅く禁じておいた。違反者は事情を問わず双方とも処刑する。同僚や知人のよしみで加担した者は本人以上に罪深い。こちらも処刑する。

また、軍中において喧嘩を処断せず見逃した場合、主人を罪に問う。

一つ、戦の前にテンションが上がってしまうのは解るが、だからと言って味方の領内で放火や乱暴狼藉に及んだ者は処刑する。当たり前である。

じゃあ敵地ならいいのかと言えば、そういう訳でもない。男女乱取りなどこれを禁ずる。

一つ、味方の領内で田畑を荒らして陣を布くことは厳禁である。

一つ、進軍中に先行部隊へ無断で斥候を出してはならない。

一つ、先行部隊の順番を抜かして手柄を立てても、軍令違反であるから処刑する。

一つ、手柄を立てたいから、あるいは戦闘が怖いからと他の部隊(備)へもぐり込む者がいたら、装備の一切合切を没収する。異論は許さない。ただし、相応の事情があるならば部隊間で調整せよ。

一つ、進軍の際、指定ルートを逸脱するなと言っておいたが、抜け駆けした者は処刑する。

一つ、こちらの派遣した奉行人の指示を聞かぬ者は、処刑する。

一つ、派遣された奉行人がどんな人物であろうと、こちらの意を受けている以上、背いた者は罪に問う。

一つ、持槍は軍役(動員ノルマ)の対象外であるから、そっちを優先して軍役対象である長柄をおざなりにしてはならない。ただし主人の馬廻に一本だけは認める。

※長柄とは足軽・雑兵の持つ柄の長い槍。一方の持槍とは短い槍と思われます。各隊としては、揃えやすい持槍でお茶を濁したかったのでしょうか。しかし集団戦でそれは困るので、あえて禁じたものと思われます。

一つ、陣中で馬を暴走させた者は罪に問う。

一つ、輸送部隊とみだりに接触してはならない。違反者は処刑する。

※物資の横領を警戒したのでしょうか。古今東西、軍隊とはそうしたものです。

一つ、勝手に商売を始めたり、押し買い狼藉をしてはならない。違反者は処刑する。

※押し買いとは押し売りの逆で、不当な安価で強引にモノを買うこと。陣中で商売を始めるに当たって、少しでも安く仕入れたかったのかも知れませんね。商売は商人に任せて、戦闘に集中して欲しい所です。

一つ、陣中における人返しは、これを一切禁じる。

※人返しとは逃亡した者を連れ戻す、あるいは逃げ込んで来た者を追い返すこと。文章に主語がないので、どういう状況なのかよく分かりませんが、部隊間の勝手な移動を禁じたものと考えられます。

一つ、命令なくして陣払いをした者は、罪に問う。

……お疲れ様でした。小田原編に比べて、随分と長くなりましたね。筆者的に興味深く感じたのは

一、諸事奉行人の指図を違背せしめば、可令成敗事

一、時の使としていかようの人を雖指遣、不可違背、若右之旨をそむくにおいては、可為曲事事

(派遣された奉行人がどんな人物であろうと、その指示=右之旨に背くな)

というくだり。やはり「そなたのような若輩者の指示は受けぬ!」と突っぱねる武将もいたのでしょうね。

一、小荷駄之儀は兼て可相触之条、軍勢に不相交様にかたく可申付、若みだりに可相交ば可成敗事

一、諸商売押買狼藉かたく令停止畢、若於違犯之族は可令成敗事

また、これらの条文から軍需物資を横領、あるいは商人から押し買いした商品を売り歩く輩の存在を想像させます。

「正規の俸給だけじゃ、やってらんねぇ。このくらいの役得は見逃してくれよ!」

そんな兵士らの声が聞こえて来そうですね。

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