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「どうする家康」猿に続いて、白兎まで女狐の毒牙に!?第38回放送「唐入り」振り返り:3ページ目
殿下には狐が憑いておる!浅野長政の諫言
劇中、ただ一人真っ向から秀吉の唐入りを否定してのけた浅野長政(濱津隆之)。
果たしてそんな事があったのか調べてみたら『東照宮御実紀附録』にこんなくだりを見つけました。少し長いですが、これも読んでいきましょう。
……浅野弾正少弼長正進み出て。 徳川殿の仰せこそげに尤と思ひ候へ。此度の役に中国西国の若者どもはみな彼地にをし渡り。殿下今また北国奥方の人衆を召具して渡海あらば。国中いよいよ人少に成なん。その隙を伺ひ異城より責来るか。また国中に一揆起らんに。徳川殿一人残りとゞまらせ給ひ。いかでこれを志づめたまふ事を得ん。さらばこそ渡御あらんとは宣ふらめ。長政がごときも同じ心がまへにて侍れ。……
※『東照宮御実紀附録』巻七「浅野長政停秀吉之外征」
長政の曰く「徳川殿の仰ること、もっともに存じます。此度の戦で西国の者たちどころか、今度は北陸や奥州の者たちも動員すれば、日本国内の守りが手薄になります。その隙をついて他国が攻めて来たり、謀叛が起きたりするかも知れません。いくら徳川殿でも、お一人では守り切れますまい。よって殿下の唐入りはご再考いただきたいと、それがしも同じく考えております」と。
この「同じ心がまへ」にかかるのは、文脈から家康に対する同意なのでしょうが、その趣旨は異なるように感じます。ともあれ、長政は続けました。
……惣て殿下近比の様あやしげにおはするは。野狐などが御心に入替しならんと申せば。関白いよいよいかられ。やあ弾正。狐が附たるとは何事ぞとあれば。弾正いさゝか恐るゝけしきなく。抑応仁このかた数百年乱れはてたる世の中。いま漸く静謐に帰し。万年太平の化に浴せんとするに及び。罪もなき朝鮮を征伐せられ。あまねく国財を費し人民を苦しめ給ふは何事ぞ。諺に人をとるとう亀が人にとらるゝと申譬のことく。今朝鮮をとらむとせらるゝ内に。いかなる騒乱のいできて。日本を他国の手に入んも計り難し。かくまで思慮のなき殿下にてはましまさゞりしを。いかでかくはおはするぞ。さるゆへに狐の入替りしとは申侍れといへば。……
※『東照宮御実紀附録』巻七「浅野長政停秀吉之外征」
「そもそも近ごろの殿下は妙なことばかり思い立って、狐にでもとり憑かれたのではございますまいか」
「やい弾正(長政)!狐が憑いたとは何たる暴言か!」
「ようござるか。応仁の乱よりこのかた、百年以上にわたる乱世がようやく静まろうとしているにもかかわらず。殿下は罪もなき朝鮮国へ兵を出され、国財を浪費して臣民を苦しめておいでじゃ。これを狐憑きと言わず何と言われるか!」
「むむむ……」
「何がむむむじゃ。よろしいか。ことわざに『人を食おうとした亀が人に捕らわれる』と申しましょう。朝鮮や明に気をとられて、肝心の日本国を失ってはお話しになりませぬ。それが解らぬ殿下でもなかろうに、だから狐が憑いたと思うたまでよ!」
完膚なきまでに論破されてしまった秀吉は、ぐうの音も出ず、負け惜しみを漏らしました。
……関白事の理非はともあれ。主に無礼をいふことやあるとて。已に腰刀に手をかけ給へば。織田常真前田利家などおしふさがり。弾正こそ立といへども退かず。某年老て惜くも侍らぬ命を。めされむにはめされよとて座を立ねば。 君徳永有馬の両法印に命じて。長政を引立て次の間につれ行て事済けるとなり。秀吉も後には悔思ひけるにや。みづから渡海の儀はやみけるとぞ。(岩澗夜話別集。天元實記。)……
※『東照宮御実紀附録』巻七「浅野長政停秀吉之外征」
「黙れ黙れ!事の理非はともかくとして、主君に暴言を吐くなど許さぬぞ!」
完全に怒り狂った秀吉は、腰の刀に手をかけました。それを織田常真(織田信雄)と前田利家が慌ててとどめます。
「弾正、立て!」
その場を収めようと長政に退出を命じますが、長政はそれに従わず、言い捨てました。
「もう十分に長生きしたゆえ、もはや命も惜しうない。殺すなら好きにすればよかろう!」
そう言って立ち上がり、長政は退出。後から徳永寿昌と有馬規頼の二人に命じて、形式的に引き立てさせます。
一度始めた戦を簡単にはやめられないものの、ともあれ秀吉自身の唐入りは取りやめになったのでした。
劇中ではまるで家康の説得によって思いとどまったような描写でしたが、むしろ先陣を切りたいイケイケ派だったようです。
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