「鎌倉殿の13人」ついに頼朝追討の宣旨!?受けて立つ頼朝…第19回放送「果たせぬ凱旋」予習:4ページ目
都落ちした義経、気がつけば主従5人だけ
「何だと、兄上が……」
頼朝が上洛してくると聞いて、義経と行家は浮足立ちました。まともに戦っても勝ち目はありません。
「「九州へ逃げるぞ!」」
文治元年(1185年)11月3日、後白河法皇へあいさつも出来ないまま京都から逃げ出しました。
こうなるともう「義経は落ち目だ」とばかり、今までつき従っていた家来たちも脱走。『吾妻鏡』によると、その様子が判ります。
11月3日…約200騎で都落ち
11月5日…多田蔵人行綱(ただ くろうどゆきつな)と交戦、撃退したが犠牲者・脱走者多数
11月6日…行家にも見捨てられ、とうとう主従5人に
最後に残ったメンバーは源有綱(みなもとの ありつな。源頼政の孫で義経の婿)、堀景光(ほり かげみつ。金売り吉次と同一人物?)、武蔵坊弁慶(演:佳久創)、そして静御前(演:石橋静香)。
暴風雨で九州への出航を諦め、奥州の藤原秀衡(演:田中泯)を頼ることになるのですが、それはまた後の話し。
ちなみに正室の里(演:三浦透子。郷御前)は別ルート(途中で合流)で奥州へ、娶って間もない側室の蕨姫(平時忠の娘)は義経を早々に見捨てて京都に残ったと見られます。
「……まぁ、そうなるな」
黄瀬川(現:静岡県清水町)に駐屯していた頼朝は、義経の都落ちを知ると間もなく鎌倉へ引き上げていきました。
天魔と天狗の言い争い
「……で?九郎らに宣旨を発せられた言い訳は?」
とりあえず義経の謀叛がほぼ片づいたので、頼朝は後白河法皇を責め立てます。その場の勢いで後先考えずに討てなどと言うから、こういうことになるのです。
「えーと、それはきっと魔が差してしまったのでしょう。あやつらは宣旨を下さねば自害するなどと脅すので仕方なく、と言いますか(万が一逆ギレされたら怖いですし)……でも本心じゃなかったので、宣旨を下したとは言っても実質的にはそうでないようなモノでして……えーとえーと……」
【原文】……行家。義經謀叛事偏爲天魔所爲歟。無宣下者參宮中可自殺之由。言上之間。爲避當時難。一旦雖似有勅許。曾非叡慮之所與云々。是偏傳天氣歟。
※『吾妻鏡』文治元年(1185年)11月15日条
これを聞いた頼朝は呆れて答えます。
「その天魔とやらが誰を示しているのかは存じませんが……天魔とは仏法を妨げ、人々に禍をなす者。この頼朝は義仲や平家など多くの朝敵を滅ぼし、朝廷に忠義を尽くして参りました。それを考えなしに討伐せよなどと仰せになったせいで、行家や九郎は謀叛人となってしまったのです。あやつらを討つためにまた多くの犠牲が出ることでしょう。それこそ日本一の大天狗(の所業)に他なりませんな!」
【原文】……天魔者爲佛法成妨。於人倫致煩者也。頼朝降伏數多之朝敵。奉任世務於君之忠。何忽變反逆。非指叡慮被下院宣哉。云行家。云義經。召取之間。諸國衰弊。人民滅亡歟。仍日本第一大天狗者。更非他者歟云々。
※『吾妻鏡』文治元年(1185年)11月15日条
すべて天魔≒頼朝のせい、と言い訳した後白河法皇に対して「お前こそ日本一の大天狗だ!」と(婉曲ながら)言い返した頼朝。
これにはさすがの「大天狗」も返す言葉がなかったことでしょう。
終わりに
かくして、修復不可能となってしまった頼朝と義経。紆余曲折あって奥州へと逃げ延びた義経を追い詰めていくことになるのですが、それはもう少し先の話し。
古来、力ある者たちを競わせてパワーバランスを保ち、その頂点に君臨してきた朝廷。中でも後白河法皇はその駆け引きに巧みな「大天狗」でした。
こういう政治的なやりとりは合戦に比べて派手さは少ないものの、その巧妙さに感心させられることもしばしば。歴史モノを楽しむ醍醐味の一つと言えます。
さて、第19回放送「果たせぬ凱旋」ではどのようなアレンジが加えられるのか、今から楽しみですね!
※参考文献:
- 『NHK大河ドラマ・ガイド 鎌倉殿の13人 前編』NHK出版、2022年1月
- 『NHK2022年大河ドラマ 鎌倉殿の13人 完全読本』産経新聞出版、2022年1月