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武士が小細工を弄するな!鎌倉武士の鑑・畠山重忠の高潔なエピソードを紹介

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武士が小細工を弄するな!重忠の苦言

「……何の事ですか?則宗の件は、波多野殿がお一人で承ったこととお聞きしていますが」

【原文】
「……その事を知らず。盛通一人の所為の由(よし)、承り及ぶところなりと云々……」
※同条

呼び出された重忠の供述は、実に明瞭簡潔なものでした。

則宗をねじ伏せたのは眼前に迫った同僚の危難を救うため、何より御公儀の秩序を乱す賊を鎮める御家人としてごく当然の振舞いであり、別に恩賞が欲しい訳でもなければ、ましてや他人様の手柄を横取りなんてしたくない。

そんな重忠の高潔さに、御家人たちは一同感心。「しからば御免」と下がった重忠は、侍所に秀幹を連れ込んで苦言を呈しました。

「あんな下らん言いがかりをつけて何になる。武士がつまらん小細工を弄するな。どうしても盛通殿に嫌がらせがしたいなら『自分が捕らえた』とでも言えばよかろう……」

【原文】
「かくのごときの讒言(ざんげん)もつとも無益の事なり。弓箭(ゆみや・きゅうせん)に携はるの習、横心(わうしん)なきをもつて本意となす。しかれども客意を勲功の賞に懸くるがために、阿黨を盛通になさば直(ぢき)に則宗を生虜(いけど)るの由、これを申さるべきか……」
※同条

責められた秀幹は顔を真っ赤にして何も言い返せず、これを聞いた御家人たちはますます感じ入ったそうです。

終わりに

こんな具合で何事も公正無私な生き方を貫き通した重忠ですが、それを周囲に認めさせるだけの実力があって初めて通用したのは言うまでもありません。

「If I wasn’t hard, I wouldn’t be alive.
If I couldn’t ever be gentle, I wouldn’t deserve to be alive.」
(強くなければ、生きていけない。優しくなければ生きる資格がない)

byレイモンド・チャンドラー(小説家)

とかく弱肉強食な世界にあって、坂東武者・鎌倉武士の理想を追求し続けた重忠の生き方は、現代の私たちにも大切なヒントを与えてくれそうです。

※参考文献:
永原慶二 監修『新版 全譯 吾妻鏡』新人物往来社、平成二十三2011年11月29日

 

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