米津玄師「死神」の元ネタになっている落語の「死神」ってどんな話し?:2ページ目
医者を始めてみたところ……
さて、何の心得もないけれど医者をはじめてみたところ、さっそく日本橋にある大店の番頭さんがやってきて「どこの医者にも匙を投げられてしまったのだが、どうか主人を診て欲しい」と懇願します。
「はいはい、もちろん行きますよ」
果たして行ってみると、都合よく病人の足元に死神が座っているので「あぁ、こんなものは簡単に治ります」と啖呵を切って「これから秘術を施すから」とか何とか言って、人を遠ざけました。
そして例の「あじゃらかもくれん……テケレッツの、パ(柏手2回)」をやってみると、果たして死神は立ち去り、病人はケロリと治って「ウナギが食いたい」なんて言い出す始末。
「江戸中の医者という医者が匙を投げた患者を、いとも簡単に治してしまった……いやぁあの先生は名医だ……」
この一件以来、男の元には診てくれ診てくれと患者の家族がひっきりなし。どの医者も見放した重病人ばかり回されるものですから、たとえ死神が枕元に座っていたって、神妙な顔で「手は尽くしましたが……」と伝えれば、家族からも不満どころか「最後まで熱心に看て下さり、ありがとうございます」など感謝されるくらいでした。
かくしてブランドが出来てしまえば後はもう黙っていても客は押し寄せ、にわかに金回りがよくなると、男は女房子供など追い出してしまって贅沢三昧の好き放題。
「いやぁ愉快々々……」
などと調子に乗っていたところ、今度はパタッとお客が来なくなってしまいます。
枕元の死神を……
「あれ、どうしたんだろう」
どうしたも何も、医者は病気を治すのが仕事ですから(予防医療なんて概念の普及していない時代でした)、病人がいなければ仕事もない訳で、医者が努力して病人を作る訳にも行きません。
さぁ困りました。このままではいよいよ飢え死にです。
最早これまでかと思っていたところ、念願の患者が現れたので往診に駆けつけますが、久しぶりに会った死神が座っていたのは枕元。
「……誠に残念ながら……」
これじゃほとんどお金はとれません。とは言え寿命なものは仕方がないので男が告げると、家族は「そんなことを言わないで、あと一ヶ月延命していただければ、千両、いや一万両をお支払いします」などと懇願します。
いくらお金を積まれたって無理なものは……いや、待てよ?男は一計を案じました。
「店の男手を集めて布団の四隅を持たせ、私が合図したら、それを回して下さい」
つまり、死神が「あじゃらかもくれん……」を聞いた瞬間に枕元と足元をひっくり返してしまえば、生き死にが逆になって患者が助かるという算段です。
死神が転寝をした隙を狙ったところ、作戦は見事に成功。今まで枕元に座っていると思っていたのが足元に座っていることに気づいた死神は大慌てで逃げ出し、患者はケロリと治って「今日も元気で煙草が旨い」などと言いだす始末。
「ありがとうございます、ありがとうございます……!」
一万両は流石に重たいので後日届けてもらうことにして、とりあえず数両ばかり手に入れた男は、ホクホク顔で歓楽街に出かけたのですが……。