「福」を呼び込め!陰陽道から生まれた幸運を祝う浮世絵「有卦絵」とは【後編】:2ページ目
風船で浮かんでいる人
そして一番左の掛軸には「風船で浮かんでいる人」が描かれています。
“風船で浮かんでいる人”に関しては次のような背景があります。明治に入って23年を経た1890年11月24日、来日中の英国人スペンサーが風船(軽気球)に乗り上野公園で興行を行ないました。
もの珍しさも手伝って会場は大混雑。上野博物館前から風船で空高く飛び立ったスペンサーは風船から傘(パラシュート)に移り、根岸近辺に着地し大成功をおさめました。
上掲の『風船乗評判高楼』の浮世絵を描いたのは、『金性の人』と同人物、歌川国貞(3世)です。有卦絵の“風船で浮かんでる人”の掛け軸の絵も、スペンサーが風船(軽気球)に乗って空高く飛んでいったのを見知っており、描いたものでしょう。
「ふ」で始まる花の名
三枚の掛軸の右側には“ふ”ではじまる“藤の花”が、掛軸の前には“福寿草”が飾られています。
このように花の名前の最初の文字が“ふ”で始まるものを描いた『有卦絵』には以下のようなものもあります。
上掲の有卦絵では“福助”が花屋の店番をしており、“福娘”が“ふうらん”の鉢植えを手にしています。この花は江戸時代から愛された伝統園芸植物で“富貴蘭(ふうきらん)”といい、徳川十一代将軍家斉も愛好したという花です。
福娘の後ろには“ふくぼたん”、そして右へと“ふぢなでしこ”、“ふよう”、“ふうきそう(富貴草)”、“福寿草”、一番右下には“藤の花”があります。
福助の上着のポケットのあたりには“福”の字が、福娘の着物の模様にも“福”の字が染め抜かれており、福尽くしの「有卦絵」です。タイトルに『木性の人』とあるので、それに因んだ(つまり“植物の絵”)でまとめたのでしょう。
こちらの「有卦絵」も福助と福娘が描かれています。福娘はただの福娘ではなく“藤娘”です。背景には“富士山”が描かれ、福助の手には“鷹”が。“藤娘”の着物の柄をよく見てみると“茄子”が描かれています。何か気づきませんか?
そう、初夢でみると縁起がよいといわれることわざの“一富士、二鷹、三茄子”です。何故この三つなのかというと、徳川家康が“富士山と鷹狩と初物の茄子が好きだったから”など、さまざまな説があります。