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三国志ファンなら絶対見たい!幻の歌舞伎十八番の一つ「関羽」とはいったいどんな物語なのか?

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一方、ツッコミどころも

さて、この演目は「範頼が頼朝公から謀叛を疑われて失脚」した史実が元ネタとなっていますが、それ以外はほぼフィクションです。

まず、最初に範頼の野心を阻止しようと張飛に扮した平景清ですが、その姓からも察しがつく通り、彼は平家方の武将です。

壇ノ浦の戦いで捕らわれてからは主君への忠義を全うするため、「源氏の施しは受けぬ」とばかり絶食、そのまま餓死してしまいました。

そんな「アンチ源氏」の景清ですから、源氏の内乱は大歓迎、その場に生きていればむしろ範頼をそそのかす側に回っていたかも知れません。

まぁ忠義一徹・公明正大で知られた畠山重忠なら、もし範頼の企みを知っていれば間違いなく止めたでしょうが、重忠ならわざわざ関羽のコスプレなんかしなくても、むしろ「畠山重忠」の方が当時の御家人たちにとっては大きなネームバリューだった筈です。

※もっとも、それは景清についても同様で、敵の錣(しころ。兜の部品)を引きちぎるほどの勇猛さから悪七兵衛(あくしちびょうゑ)の異名をとったほどの豪傑でした。

終わりに

そんな設定の“荒唐無稽“感もあってか「どうだ!三国志だ!関羽と張飛の揃い踏みだぞ!」というノリと勢いだけではあまり人気も出なかったと見えて、興行成績は振るわず、いつしか忘れ去られていったようです。

しかし、せっかく市川團十郎が始めた「関羽」をそのまま風化させてなるものか、と大正時代に市川左團次(いちかわ さだんじ。二代目)が、そして昭和六十1985年に尾上松緑(おのえ しょうろく。二代目)が復活上演を果たしています。

その後、再び「関羽」が上演されたという話は寡聞にして知りませんが、三国志ファンの一人として、いつかその熱演を拝ませて頂きたいものです。

※参考:
河竹繁俊・児玉竜一『歌舞伎十八番集』講談社学術文庫、2019年9月12日
十二代目 市川團十郎『新版 歌舞伎十八番』世界文化社、2013年9月14日

 

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