小説執筆を許されるも無断欠勤!?シングルマザー「紫式部」、子育てと仕事の両立に悩む。:3ページ目
式部の置かれた状況
前出の倉本氏は「実際には、実家で『源氏物語』の執筆に専念するのが、当初からの勤務条件であったのかもしれない」としながらも、「他の女房のような雑用は比較的免除され、『源氏物語』の執筆を期待されていた立場は、当然ながら快くは思われなかったはずである」と述べています。
優遇されたことで、かえって居心地が悪くなってしまったという感じでしょうか。
そして実際、宮中ではそんな式部に対する陰口が飛び交っていたようです。『紫式部集』には、「これほど私が塞ぎ込んでしまっているのに、『ずいぶん上臈(じょうろう・身分の高い女房)ぶっている』と言っている人がいると聞いて」という詞書に続いて、
わりなしや 人こそ人と いはざらめ みづから身をや 思ひ捨つべき
(仕方がない。あの人たちは私を人並みといわないでしょうが、自分で自分を見捨てることはできないのだから)
という歌が収められているのです。
国文学者の今井源衛氏は、著書『紫式部』の中で、「ひとつだけはっきりしていることは、出仕して、わずか数日で早々と実家へ引き揚げたきり、同僚からの慰撫にも、また中宮直きじきのお言葉にも耳を貸さず、長期にわたって頑として応じない、式部の強い態度である」と述べています。
これをもって、紫式部が芯の強い女性だったと見るかどうかは、意見が分かれるところでしょう。
急に彼女が引きこもりになってしまった理由は不明であるものの、それを彼女独特の頑迷さと見るか、あるいは子供を抱えた状態で働きに出ることで心身に負担がかかったのか。そこは人によってさまざまな印象がありそうです。
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参考資料:
歴史探求楽会・編『源氏物語と紫式部 ドラマが10倍楽しくなる本』(プレジデント社・2023年)