天下の御意見番・大久保彦左衛門が好んで食した戦国武将のパワーフード「鰹節」:2ページ目
「見て解らんか。鰹節じゃ」
そりゃ解るけど……普通、こんなものを見舞いには持ってきません。戸惑う直政を前に、彦左衛門は得意顔です。
「昔は貴殿と轡(くつわ)を並べ、よう戦さ場を駆けずり回ったものじゃが、いざ立身出世を果たしてみると、贅沢暮らしで身体がなまってしまったのやも知れぬぞ。ここらで一つ、昔のようにコレでもかじって、元気を取り戻すことじゃ」
彦左衛門は帯に差しておいた自分の鰹節を取り出すと、ひとかじりしてニヤリと笑いました。
「まったく(自分は出世してできないからと)負け惜しみを……しかし、彦左殿には敵わんな」
直政も貰った鰹節の先っぽをかじってニヤリ。久しぶりに、戦さ場を駆けずり回っていた頃の顔に戻ったようです。
自分が立身出世を果たすにつれて、周囲の者たちがよそよそしくなっていく中、彦左衛門だけは変わらず接してくれる。晩年の直政にとって、ホッとするひとときとなったことでしょう。
現代人も摂り入れたい、鰹節のパワー
こんなエピソードがあるように、彦左衛門は平素から鰹節を持ち歩き、食事が出来ない時はこれをかじることで力を出したそうです。戦う武士のパワーフード、まさに「勝男武士」ですね。
鰹節には牛肉の3倍にもなるたんぱく質をはじめ、ビタミンやミネラルなどの栄養素や、必須アミノ酸のトリプトファンが豊富に含まれています。
このトリプトファンは精神の安定・高揚をもたらすセロトニンを生成し、不遇に鬱屈しがちな彦左衛門の誇りを支え、心身の健康を保ったことが80歳という長寿の秘訣だったのではないでしょうか。
凄惨な事件や感染症の蔓延、モラルの低下など、心身ともに不安になりがちな現代ですが、鰹節に限らず食べ物から元気を摂り入れることで、力強く生きていきたいものです。
※参考文献:
永山久夫『武将メシ』宝島社、2013年3月
和田俊『かつお節 その伝統からEPA・DHAまで』幸書房、1999年12月