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実に世知辛い…鎌倉時代の随筆『徒然草』が伝える吉田兼好のがっかりエピソード

実に世知辛い…鎌倉時代の随筆『徒然草』が伝える吉田兼好のがっかりエピソード

終わりに

神無月のころ、来栖野といふ所を過ぎて、ある山里に尋ね入る事侍りしに、遥かなる苔の細道を踏み分けて、心ぼそく住みなしたる庵あり。木の葉に埋もるゝ懸樋の雫ならでは、つゆおとなふものなし。閼伽棚に菊・紅葉など折り散らしたる、さすがに、住む人のあればなるべし。
かくてもあられけるよとあはれに見るほどに、かなたの庭に、大きなる柑子の木の、枝もたわゝになりたるが、まはりをきびしく囲ひたりしこそ、少しことさめて、この木なからましかばと覚えしか。

※吉田兼好『徒然草』第11段より。

言うまでもなく、他人様のものを盗むのはいけませんし、盗まれないよう対策をとるのも当然ではあるのですが、兼好法師が少し「ことさめて(興醒めに思って)」しまった落胆は、よく解る方も多いのではないでしょうか。

誰が盗んだ盗まないとか、証拠はあるのかないのかなど、とかくギスギスした世の中ではありますが、少しずつでも互いが信頼し合い、風雅の心を保ち続けるよう努めたいところです。

※参考文献:
島内裕子 訳『徒然草』ちくま学芸文庫、2010年4月
小川剛生 訳注『新版 徒然草』角川ソフィア文庫、2015年3月

 

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