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明治時代、二宮尊徳を超える財政システムを追求した渋沢栄一と西郷隆盛

明治時代、二宮尊徳を超える財政システムを追求した渋沢栄一と西郷隆盛

よりよい知恵を結集し、日本国全体に活かしたい

「……が、西郷さんは情の篤さゆえ、相馬藩ばかりにとらわれ、国家全体のことを見逃しておいでではありませんか?」

栄一は話を続けます。

「確かに、この興国安民法はさすが二宮先生と言える素晴らしいシステムです。だからこそ、私たちはこうした各地の知恵を結集して、日本国全体に活かしたいのです」

「ふむ」

「名称こそ変わっても、その思想や運用は興国安民法と同レベルか、それ以上に改良した財政システムを日本国全体で適用したい……西郷さんであれば、お解り頂けますな?」

「……ふむ」

それですっかり納得したようで、西郷さんは静かに一礼すると、栄一のあばら家から出て行ったのでした(その後、西郷さんは自分に陳情してきた者たちをきちんと説得したという事です)。

終わりに

普通、政府高官である西郷さんが、わざわざ一官僚に過ぎない栄一のところまで出向いたのだから、「手ぶらで帰らせる訳には行かない」と忖度してしまいそうなものですが、栄一はそれをせず、道理をもって納得せしめました。

対する西郷さんも「参議である俺様が、わざわざ出向いたのに!」などと怒るようなこともなく、道理が通じれば面子にこだわらず、あっさりと引き下がる。これはいずれも、簡単に出来ることではありません。

一部の利益にとらわれることなく、天下の公益を追求した二人だからこそ通じ合えた気持ちのよいエピソードは、現代の政治家たちにも見習って欲しいものです。

※参考文献:
渋沢栄一『現代語訳 論語と算盤』ちくま新書、2010年2月

 

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