[お江戸小説] ココロサク 【1話】いつものくれない荘でいつもの朝
1話 いつものくれない荘でいつもの朝
「納豆~、納豆~」
「とうふ~、あぶらげ、がんもどき~」
「しじみやしじみや」
棒手振(※1)たちの威勢のいい声が行き交い始めるのが、明六ツ(※2)。長屋の入り口の木戸(※3)もこの時間に開き、町が一気に動き出す。なんだか1日が始まるっていう感じがして、この瞬間が大好きだ。
いつもは棒手振の声で目覚めるのだけど、今日みたいに、隣の家のおすみさんの怒鳴り声が加わることもたまにある。良吉さんはいい人なんだけど、つい可愛いコに手を出しちゃう悪いクセがあって、そのたびにおすみさんにみっちり油を絞られるっていうわけ。狭い部屋の中を良吉さんが逃げ回っているのか、ほうきでお尻を叩かれているのか、壁にぶつかる音がして、それはたいそう賑やかで自然と目も覚めてしまい…。
※1 棒手振(ぼてふり)……商品を天秤棒で担いで売り歩く、商人。振売(ふりうり)という別名も。
※2 明六ツ……日の出前の、夜が明け出した頃。
※3 木戸……裏長屋への入り口を木戸口といい、明六ツに開き、暮れ六ツに閉められた。戸の開閉は、大家がすることが多い。
ページ: 1 2
バックナンバー
- No.9[お江戸小説] ココロサク【最終話】春はいつだって
- No.8[お江戸小説] ココロサク【7話】溢れそうな想い!?
- No.7[お江戸小説] ココロサク【6話】ピンチはチャンス!?
- No.6[お江戸小説] ココロサク 【5話】この恋、春が近づいてる?!
- No.5[お江戸小説] ココロサク 【4話】おりんの秘めた想い