「哀しくとも」生きのびた先に待っていたのは…「光る君へ」史実を基に12月8日放送回を振り返り:2ページ目
公卿らは無能で冷淡?
在地の武者たちと力を合わせ、見事に刀伊の賊徒を撃退した隆家。
しかし朝廷では彼らに対して冷淡であり、藤原行成(渡辺大知)や藤原公任(町田啓太)らは、勅命なく(命を受ける前に)行った私戦を賞するべきではないと主張しました。
それを聞いた実資は「命がけで戦った者をないがしろにしては、今後また何かあった時、戦ってくれる者がいなくなる」と主張します。
結局のところ実資の主張は通らず、鎮西の武者たちに満足な恩賞は与えられませんでした。
ここだけ見ると、公卿たちは国家の脅威に対する危機意識が低く、かつ冷淡な印象を受けかねません。
しかし心情的にはともかく、朝廷の判断として見れば、行成や公任らの判断は妥当と言えるでしょう。
もし勅命なく戦を行い、その評価や恩賞を朝廷が追認するシステムを確立してしまうと、武者たちは日本各地で私利私欲の戦を繰り広げかねません。
あくまで朝廷は秩序(ここでは朝野の序列や力関係)を重んじ、武力をもって世を治めることを是とはしませんでした。
しかし理想と現実は異なり、やがて世の主導権は貴族から武士たちへと移り変わっていきます。
隆家や武者たちの活躍は確かに素晴らしいものではありましたが、だからと言って彼らを手放しに賞賛できない朝廷の都合もあったのです。
間もなく隆家が大宰権帥を辞して帰京したのは、刀伊の入寇における手腕が評価されたのと同時に、隆家が九州武士団を束ねるのを阻止する当局の意向もありました。
カリスマを持つリーダーが武士たちを率いて、朝廷と距離をおいた権威を確立する、後世で言う幕府のようなものを作られてはたまりません。
隆家にそんな野望があったかはともかく、武士たちの世が来るまでは、もう少し時を要するのでした。