『西遊記』の沙悟浄は河童ではなかった!?中国の古典はいかにして誤読されたか:2ページ目
沙悟浄とは何者か
そもそも、沙悟浄とはどういう素性のキャラクターなのでしょうか。少しおさらいしましょう。
実は、彼は過去に、『西遊記』の主人公である三蔵法師を9回も殺害しています。何を言っているのか分からないと思いますがこれは本当のことで、沙悟浄は首に三蔵法師の髑髏を9つぶら下げているのです。
もともと彼は「捲簾大将(けんれんたいしょう)」(天帝の近衛兵の大将)という天の役人でした。しかし天帝の大事にしていた皿をうっかり割ってしまい、鞭打ち800回の罰を受けた上に姿も醜く変えられて地上へと追放され、砂漠のど真ん中の「流沙河(りゅうさが)」に落とされました。
彼はやむを得ずそこに住み着きますが、飢えに耐えられなくなると、地上に出て人を食べるようになります。
さて、三蔵法師は、はるか西の天竺(インド)に仏教の経典を求めて旅をしていました。が、いつも沙悟浄に食べられ、転生してまた旅をしては食べられるということを9回繰り返していました。
しかし10回目に三蔵法師と沙悟浄が遭遇する前に、沙悟浄は観音菩薩から諭されて「三蔵法師という僧侶にお供せよ」と命じられます。
で、次に出会った時には孫悟空や猪八戒にやり込められたこともあり、三蔵法師についていくことになったのです。
ああ勘違い
では、そんな沙悟浄がどうして日本では「河童」という設定になったのでしょうか?
沙悟浄の住んでいた「流砂河」は水の流れる「河」ではなく「流砂の河」のことで、水辺ではなく砂漠に近い場所でした。しかし日本では水の流れる河として誤解されてしまい、水辺に住む妖怪といえば「河童」だろうというイメージから「沙悟浄=河童」になったようです。
物語的にも、孫悟空が「猿」、猪八戒が「豚」で沙悟浄だけが「正体不明の河に住む妖怪」では、キャラクター的に中途半端だったのもあるかも知れません。
また前述のとおり「頭頂部を剃っている」という描写があることから、河童の頭にある皿のイメージと重なったところもあるのでしょう。
こうして日本では「河童」としておなじみの沙悟浄ですが、中国の人からすると「沙悟浄=河童」というのは全くもって理解できないようです。自分の国の登場人物が他所の国の妖怪にすり替わっているわけですから、当然でしょう。
参考資料