虫の声は日本人にしか聞こえない!?日本人と世界の人々の虫の声の聞こえ方について【後編】:2ページ目
虫売り
「虫売り」は寛政の頃、江戸でおでん屋を営んでいた男が、本業の片手間に捕まえた“スズムシ”を売ったのがことの始まりとされています。
それは本業の“おでん”よりも、“スズムシ”を買い求める人の方が格段に多いので、男は今でいう養殖をして虫を売ることを本業としたのです。つまり“いい声色をさせて鳴く虫”の需要が高かったのです。
江戸の人々は、虫の声を楽しみとし、虫を買うようになったということになります。
それ以降、市松模様の屋台にさまざまな虫籠をつけた虫売りが町にあらわれ,江戸の夏から秋への風物詩の一つとなったのです。
上掲の浮世絵を見てみると琴のお師匠さんの家なのか、はたまた出張で琴を教える人とが描かれた絵の下に、虫かごがあります。
この虫かごから、虫の2本の触手が出ているのがわかります。これは虫の声を奏でる虫だということがわかります。これも虫売りで買い求めたものでしょう。
■歌舞伎
歌舞伎の『艶紅曙接拙(いろもみじつぎきのふつつか)』という江戸商人の様々な姿を披露する風俗舞踊にも「虫売り」が登場しますし、また外題を「虫売」と称する演目もあります。
歌舞伎では鈴虫の声を奏でる「虫笛」や「ひぐらし笛」という楽器もあります。
また長唄の「秋の色種 虫の合方」では、三味線で虫の声の掛け合いをするという長唄舞踊の演目もあります。
江戸時代の人々に愛された歌舞伎にも自然と「虫売り」や情景描写の虫の声、または人々が好む虫の声を楽器で再現して、結果一つの楽曲として完成させるということが行われていたのです。
まとめ
日本は完全な島国であり、四季があります。日本は主に農耕民族ですから自然の移ろいを先取りするほどに感じ、それに対応していかなければ生きていくことが出来ないという事情があったと考えられます。
自然の変化に敏感に反応し、天候や気温変化、風の流れや、土の匂い、そして虫の動きや虫の声などの自然の変化に全身で耳を澄ましていなければなかったのでしょう。だからこそ日本人の感覚は研ぎ澄まされ鋭敏になっていたのかもしれません。
太陽の昇り沈みによって時刻を捉えていた日本人の情緒、感覚、能力は、自然と共に生きることにより育てられたものでしょう。
ただ現在では町が都市化していくにつれ、虫が嫌いな子供や大人が増えています。いつか日本人も虫の声が聞こえなくなる日が来るのでしょうか。
(完)