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【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第12話
前回の11話はこちら。
【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第11話
■文政七年 夏と、秋(4)
(国芳はん・・・・・・!)
みつは部屋に入ってきた男の姿を見て身体の力が抜けるほど魂消(たまげ)た。
隣にいる新造の美のるは男の顔を見て自分の背中の刺青(ほりもの)を描いてくれた絵師だと気づいたらしい。礼の一つも言いたそうであったが、姉女郎のただ事ではない様子に気を遣って動かなかった。
何しに来んした、とみつが言うより早く、
「歌川国芳と申しやす」
まるで初対面のように国芳は頬を染め、遠慮がちなにこにこ顔で低頭しながら入ってきた。相も変わらず目が星の海のごとくきらめいている。
佐吉が涼やかな目もとで、微笑しつつ言った。
「花魁、この国芳の兄さんは前に話した俺が飼ってる絵師の兄さんでね。今日は花魁を描いてもらおうと思って呼んだのさ」
みつはあまりの事に二の句が継げない。
佐吉が話すには、こうであった。
今戸の渡しの東岸に位置する近江屋は佐吉が吉原に通う前に必ず立ち寄る茶屋で、幾度も訪れ床几に腰掛け茶を啜るうちに、主人が出てきていつのまにか風流仲間になった。
佐吉が巷ではそこそこ知れた狂歌師であり、浮世絵師の知り合いも多い事が分かると、近江屋の主人は手を打って喜び、自分の見世の引札(ひきふだ)代わりに錦絵を出したいので良い絵師を紹介してくれないかと持ち掛けた。
佐吉はそれならばと同居人の国芳を勧め、今回の酒宴を開くに至ったという。
「さすがは風流心のある旦那、画題は『雪月花』だぜ。良いだろう。雪、月、花一枚ずつ出して、三枚揃物にするんだ。『雪』はもう出したから、今回は『月』だぜ」
月といえば中秋の名月、十五夜の月というわけである。
「なんであちきを」
画題に選んだのか、とみつは声を震わせながら訊いた。
佐吉が全てを知っていて、わざとみつと国芳を会わせたのなら、佐吉を許す事はできない。
「何故って・・・・・・」、
佐吉は少し照れたように頭を掻いた。
「吉原の上にある月はいつも優しい。紫野花魁は、吉原を包むあの暖けえ月のようだからさ」。
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