なぜ日本人は自然に“並ぶ”のか?行列は国民性?歴史から読み解く「順番」を大事にする理由:2ページ目
鉄道と学校が「並ぶ」を日常にした
明治以降、鉄道や路面電車が整備されて、駅や停留所にたくさんの人が集まるようになります。ここで並ばないと、単純に危ないし、乗り降りがぐちゃぐちゃになります。だからホームや改札前では、整列して順番に動くのが必要になりました。
同じ頃に広がった学校教育でも、整列や号令、集団での移動や行事が日常になります。好き嫌いは別として、結果的に「大勢が同じ合図で動く練習」をずっとしてきたことになります。駅と学校、この二つが「並ぶのが当たり前」を強くしたのは間違いないと思います。
戦後の配給は、順番が見えないと大混乱だった
戦後しばらく、日本社会は物が足りなくて、配給や分配の場面で行列がよくできました。このとき大事だったのは、「どれだけもらえるか」「どの順番で渡すか」がちゃんと示されることです。順番があいまいだと、不満が出ます。揉めます。だからこそ、列を作って順番をはっきりさせる必要がありました。
人は待ち時間そのものより、「順番が公平に見えるか」「自分がどの位置にいるか」がはっきりしているかで、待つ気持ちが変わるともされます。
「列」って、見た目以上に「納得を作る仕組み」でもあるんです。
今の日本は「表示に従う」から列がきれいに見える
今の日本では、足元マークや案内表示がよく整っています。だから「言い合いで調整する」より、「書いてある通りに動く」ほうが早いしラクです。駅でもイベント会場でも、同じやり方で回せます。
海外にも行列はあります。ただ、順番の調整を会話でやったり、その場で交渉したり、列の形がもっと柔らかかったり、国や場面によって違いが出ます。
日本人は、口頭の調整より、表示や決められた手順に寄せて処理を進める傾向が比較的強い、と指摘されることがあります。だから列が「きっちり」見えやすいんですね。
日本人の「順番を守る」という行動は、田んぼの水を分けるルール、人口の多い都市での秩序、鉄道と学校での整列、戦後の配給での経験など、いくつもの事情が重なって形づくられてきました。
性格だけで説明するより、「そうしないと困る場面が多かった」から続いてきた、と考えるほうが納得しやすいと思います。
次に列を見かけたら、「あ、こうやって順番をはっきりさせるのって、昔からずっと役に立ってきたんだろうな」くらい、ふと思ってみてください。足元の線は新しくても、やってること自体は意外と昔から同じです。
参考文献
中根千枝『タテ社会の人間関係 単一社会の理論』(1967 講談社現代新書)
NHK放送文化研究所編「日本人の国民性」『現代日本人の意識構造』第9版(2020 NHKブックス)
