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【べらぼう】智恵内子(水樹奈々)だけじゃない、江戸・天明期に活躍した女性狂歌師たち

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婆々阿(ばばあ)

『狂歌才蔵集』の女流歌人で、最も多く入集しているのがこちらの婆々阿(ばばあ)。

この露骨な狂号は何を思ってつけたのか、とても気になるところです。

棹姫の きたりぬいだり 深山木の
衣桁(えこう)にかけし 花の全盛

※婆々阿(巻第二)

【歌意】佐保姫(春の女神)が服を着たり脱いだりして(脱いだ服を衣紋掛にかけて)いるのか、深山の木々は花盛りですね。

【補足】純粋に華やかな春の風情を詠んでいるのか、あるいはお客を取っ替え引っ替え(衣を何度も着替え)しながら春を売っているのか……。

朝夕の 花の衣に よし原の
夜の錦を 重ねてや着ん

※婆々阿(巻第二)

【歌意】朝に夕に花の衣を着ているが、夜は吉原の錦を重ねて着よう。

【補足】日中(間夫との時間?)と夜(お客をとる時間)では違う顔で暮らしている。彼女は吉原の遊女だったのでしょう。

濁りなく 澄みわたりたる 月のよに
せめて飲みほす どびろくもがな

※婆々阿(巻第五)

【歌意】一点の濁りもなく澄んだ月の下で、濁酒を飲み干そう。

【補足】まったく世の中が澄み切って(規制が厳しくて)息苦しいから、せめて酒くらいは濁ったのを飲もう。

待ちつけて まつ間ほどなく かじけなば
今日ふる雪よ いかがつもらん

※婆々阿(巻第六)

【歌意】そんなに待っていないけど、早くも手足が悴(かじか)んでしまう。今日の雪はどのくらい積もるだろうか。

【補足】雪の降る中、待ちぼうけ。果たして今日は、どのくらい待たされるのでしょうね。

羽をならべ 枝をつらねて 長まくら
長き千とせも 二人して経よ

※婆々阿(巻第九)

【歌意】新婚のお二人さんへ。比翼の鳥・連理の枝となりますように。

【補足】どちらも一心同体の喩え。末永く幸せであって欲しいですね。

持たぬゆへ へらず口とは 思へども
金があるなら 人にやりたき

※婆々阿(巻第十ニ)

【歌意】実際には持ってないから、言ってもしょうがないとは思うけど、金に余裕があるなら人にあげたいと思っている。

【補足】お金を出さないのはケチだからじゃなくて、本当に持っていないんです。なぜ持っていないか(なくなった理由)は、聞かないで下さい。

終わりに

今回は大田南畝選『狂歌才蔵集』より、女流狂歌師たちの作品を紹介してきました。

ちなみに、我らが蔦重も「蔦から丸(つたの からまる。唐丸)」名義で一首寄せています。

髪それば 格別目だつ 耳のたぶ
目出度くのする 米の数かな

※蔦から丸

【歌意】髪(もみあげ)を剃ると、福耳が一際目立つものだ。米を何粒乗せられるだろうか。

【補足】耳たぶに米粒が多く乗るほどめでたいそうで、蔦重の耳には何粒乗ったのでしょうね。

息苦しい世の中を、笑いとユーモアでしたたかに生き抜いた狂歌師たち。他にもたくさんの狂歌が伝わっているので、また紹介したいと思います。

※参考文献:

  • 中野三敏ら校注『新日本古典文学大系84 寝惚先生文集 狂歌才蔵集 四方のあか』岩波書店、1993年7月
 

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