
”何もない” に宿る美しさ……古来から日本文化が大切にしてきた「間(ま)」とは?
私たちの多くは普段、賑やかで活気のあるものに目を向けがちです。
一方、日本の文化では、「何もないところ」や「静かな時間」にこそ、美しさや意味を見出してきました。その中心にあるのが、「間(ま)」という考え方です。
※合わせて読みたい記事↓
日本文化の奥にひそむ問い――ドイツ哲学者達はどのようにして「日本の禅」と出会ったのか?【前編】
日本文化と聞いて、皆さんはどんなものを思い浮かべるでしょうか。お茶、着物、神社仏閣、四季折々の自然の風景――目に見える美しさが、まず心に浮かぶかもしれません。けれど…
「間」とは、空間の“あいだ”や、音と音の“すきま”、人と人との“沈黙の時間”などを指す言葉です。ただの“空き”ではなく、そこに流れる気配や空気、時間の感覚までをふくむ、豊かな美意識なのです。そして、この「間」の感覚は、日本と西洋を比べると、はっきりとした違いが見えてきます。
たとえば建築の世界。西洋の建物は、石やレンガなどでしっかりと壁をつくり、内と外をくっきりと分ける発想が基本です。空間は「囲い込むもの」として考えられてきました。
一方、日本の伝統的な建物では、障子やふすまといった、開け閉めができる“柔らかい仕切り”が使われます。風や光、人の気配がゆるやかに流れることで、空間に「余白」や「あいまいさ」が生まれるのです。ここにも「間」の美学が息づいています。
音楽にも違いがあります。
西洋音楽では、メロディーやハーモニーを重ねて、空間を音で満たすことが重視されます。
それに対して、日本の伝統音楽――たとえば尺八や能楽――では、「音を出していない時間」こそが大切にされます。音と音の“あいだ”にある沈黙が、聴く人の心を動かすのです。
ページ: 1 2